「お風呂でたよー」
初夏。日中かいた汗のべたつきを落とせるお風呂は気持ちいいものの、上がったあとの蒸し暑さは耐え難いものがあるなとため息をついた。
幾分か軽い格好をした私が、濡れた髪を拭きながらリビングに足を踏み入れる。クーラーの効いた部屋はひんやりしていながらも、火照った私の身体をちょうどよく冷やしてくれた。
「ワタルも入ったら?」
「………」
「クーラー涼しいね」
「………」
「? あれ、ワタル?」
お風呂へのご案内と、それから他愛ないただの日常会話のふたつをきれいにスルーされて思わず目を見張る。人の都合なんて考えなしに話すと友人たちによくため息をつかれる私の話を、普段にこにこと微笑みながら頷いてくれる彼の相槌がない、とは。
見える背中からは何も分からなくて、大慌て慌てでワタルの座るソファーの前へと飛び込んだ。そこで見たのは、うつらうつらと船をこぐ、無防備きわまりないチャンピオン様のオフのすがた。その眉根は、疲れきっているのかほんの少し寄せられていて。
「……最近忙しそうだったもんね」
「ん……」
「返事されちゃった」
疲れていても、眠くても、それでも私のしょうもない話を聞いてくれようとしているのか。それともそもそもただの寝息なのか。どちらにせよ、私の前で無防備なすがたを見せてくれるワタルが可愛らしくて大切で、大好きだという事実に変わりはなくて、私はその柔らかい髪を優しく撫でる。普段は撫でられてばかりな気がするから、今日くらいは私が。
なんだか、起こしてベッドに連れていくのも申し訳なくて、こういうときは自分がワタルみたいな力持ちじゃないことを恨みたくなる。寝落ちた私をベッドに運んで寝かしつけてくれたことが数えきれないくらいある私にとっては、なんだかそれが複雑だった。きっと、ワタルに伝えたら「寝たきみを運べるのはおれだけの特権だからね」なんて笑いそうなところだけれど。
寝室から持ってきたタオルケットを彼にかけてあげる。ついでに、読みかけの本を持ってきて隣に腰かけた。クーラーを弱めて、つけっぱなしだったテレビを消して。かけたタオルケットの中に自分も潜り込んだのは、すこし図々しかったかな。
「ワタル、おやすみ。起きたらちゃんとベッド行こうね」
すこしだけ伸びをして、そのこめかみに唇を寄せた。