いつも私より遅く眠って早く起きては「眠る前にきみの寝顔を見るのと、起きたあとにきみの寝顔を見るのがおれの幸せだからね」なんて恥ずかしげもなく言ってくるワタルが、私の前で寝息をたてる姿は非常に珍しいことで。どうやらここ数日立て込んでいたGメンの仕事はよっぽどハードだったらしい。閉じられた瞳は開かれる気配がなく、珍しいことだらけだなと、もうひとつの傷に指を這わせた。
ひとつ、ふたつ、みっつ。数え出したらきりがないくらいに彼の身体に刻まれた傷は、ポケモンにつけられたものなのかそれとも正義のヒーローをやっているときにつけられたものなのか、多くを語りたがらないワタルの口から直接聞いたことはない。だけど、実家のあるフスベシティのジムリーダーである、ワタルのいとこのイブキさんから聞くところによると、昔から平気な顔をして身体に傷を作っては家の人に心配されていたと聞く。今はその役目が私になったんだなあと思うと、くすぐったくもあるけれど、やっぱり大切な人には傷付いて欲しくないのも本音で。
こうして触れていれば、もしかしたら消えるんじゃないかと、指を這わせながら笑う。目の前の胸板の、いくつ目かわからない古傷に指先を置いたとき。指先を掬われて、それから一緒に顎も掬われた。
「ん、っ!」
「……朝から大胆なことをするんだね」
おかげで色々目が覚めたよ。なんて笑うワタルが、布団の中で私の身体を抱き寄せる。Gメンの仕事で疲れているんじゃないかと思っていたのに、疲れきっていたはずのその身体で昨夜は散々楽しまれてしまったので、おかげさまで今はお互い下着しかつけておらず。素肌が触れあって、なんかくすぐったい。思わずその傷だらけの胸板を押し返したら、逃がさないとばかりに腕に力が込められた。
ちゅ、ちゅ、と至るところに唇を寄せられて、朝からやだよと意思表示をする。聞いているようで聞いていないワタルが甘ったるい声で頷くも、何度も唇を掠め取られて諦める気が無いことを知る。諦めた頃に、優しく抱きしめられた。少しだけ硬めの赤い毛が、私の耳元をくすぐる。「ワタル〜」と今一度名前を呼べば、返事は返ってこなかった。
「もしや、この体勢で寝た……?」
「……」
「嘘でしょ、なにこの丸太みたいな腕。びくともしない」
甘ったるい返事は、眠かったからなのかもしれないと思うとなんとなく納得した。それに、私を抱き枕代わりにして寝るなんて、なかなか可愛らしいことをしてくれる。……なんて思いながらも、全力で身をよじっても抜け出せない腕に絶望もした。丸太みたいな太い腕は、がっちりと私を抱きしめていてびくともしない。上やら下から抜け出せればと思ったけれど、腰を抱かれたらそれも叶わず。
朝から色々と支度はしたかったけれど、だからといって連日働き詰めだった後の心地よい二度寝を堪能してる彼を起こすのも忍びない。仕方がないと、私も諦めてその身体に身を委ねることにした。せっかくの休みだから、私もゆっくりしてしまおうと目を閉じる。
お昼ごはんを作ったワタルにやんわり起こされるまで、私が起きることはなかった。