「眠れないのかい?」
聞こえてきた声にぴくりと肩を揺らす。きっと朝早いだろうから、起こしてはいけないと思ってじっとしていても、この人にはお見通しだったようで。ゆっくりと顔をあげる。普段逆立てている赤い髪の毛を落ち着かせたワタルが、その大きくてゴツゴツとした指先でするりと私の髪の毛をすいた。
「ごめん、起こしちゃったね」
「うとうとしてただけだから平気さ」
「大丈夫、眠れるから」
「そういう問題じゃないだろう」
何事も無理にするものじゃないと、やや強めの口調で言われる。だからといって、恋人という立場に甘えてワタルのお荷物や足を引っ張るような存在でいるつもりもないので、その言葉にゆるりと首を振った。ワタルが困ったように眉を下げるのが薄暗がりでも分かる。私のわがままに付き合ってくれる大好きな表情だった。
私の髪の毛をすいていたワタルの指先が私の頬に触れる。親指で優しく頬骨あたりを撫でられて、その手のひらの温かさに目を閉じた。眠れる気はしなかったけど、心地が良い。甘えるようにその胸板にすり寄れば、ワタルは小さくため息をついて私の身体に腕を回した。
トントンとリズミカルに背中を優しく叩かれると、まるで赤ちゃん扱いされているような気持ちになる。パパをしているワタル。あまりにも想像できてしまって、ちょっとだけにやけてしまった。
「なにか可笑しいことでも?」
「えっ……顔見えてないはずなのにバレてる」
「身体が揺れていたよ。お見通しだ」
「ふふ、」
「こら。笑ってないで、寝る努力をしてくれ」
「さっき無理にするものじゃないって、ワタルが言った」
「無理と努力は違うよ。そんな揚げ足とるようなことを言う口は、ここかな」
背中に回されていたワタルの手が、再び私の頬を滑る。大きな親指がむにむにと唇を撫でた。いや、撫でるというよりも押さえつけるというか、押し付けるというか。「ウムゥ」声にならない声で抵抗すると、ワタルは身体を揺すりながら笑った。
しばらくお互い何も言わずに、シーツと掛け布団が擦れる音と、私とワタルの服が擦れる音だけが聞こえる。私の唇を撫でていた指が、音もなく顎にかかった。くい、と上げられる顔。近付くワタルの顔に、ゆっくりと目を閉じる。
「おやすみ。今度こそちゃんと眠るように」
「はあい。おやすみなさい、ワタル」
ちゅ、と優しい音と一緒にワタルの顔が離れて、だけど身体はいっそう強く抱きしめられて。ワタルの体温と幸福な匂いに包まれながら私は深く息をついて、そうっと目を閉じた。