甘やかしの砂糖漬け

さらりと落ちてくる真っ白な髪は、生まれつきだった。親が白かったというわけでもなく、まあある程度は薄い色素だったけれど、ここまで真っ白に染まるくらいではなかった。だけど両親は、そんな私でも大切に育ててくれた。幸いにも髪が白いだけで他の病気とかにもならなかった私は、こうして今日も元気に生活できている。
落ちてきた髪をヘアゴムできゅっと縛り上げ、エプロン片手に朝ごはんの調理に取りかかろうとしたとき。首にかけたエプロンの腰紐が、するりと取り上げられた。振り返ればそこには、普段上げている朱色の髪を落としたワタルさんの姿があって。

「ワタルさん。おはよう」
「おはよう。これはおれが結ぼう」
「うん、ありがとう」

長い腰紐を握りしめたワタルさんが、にこりと優しく笑う。甘い申し出に頷くと、私はそのままゴソゴソと調理道具を準備し始めた。動く私を気にすることなく、抱き寄せるようにして腰紐をぐるりと私の前に回す。それから少し離れて、背中で紐が結ばれる気配がした。
ありがとうと、振り返りながらもう一度お礼を言う。返事の代わりに、再び彼の手が私のお腹周りに回された。その手にはもちろん腰紐なんて無くて。

「朝から甘えん坊さんですねえ」
「キッチンに立つきみの後ろ姿に、たまらなく幸せだと感じたよ」
「それはそれは、光栄です」

だからそろそろ離して欲しいなという意味を込めて、お腹前に回された手をペシペシと叩く。もちろん、こんな攻撃で諦めるとは思っていないので、次は私の首筋に顔を埋めたまま動こうとしないその髪を撫でた。
「ん」という声なのか吐息なのか分からないものが聞こえてきて、ワタルさんは埋めていた顔をゆっくりと上げる。ちゅ、とこめかみに落とされるキス。朝からめちゃめちゃに甘いことしてくるなあと、ちょっとだけ笑った。

「くすぐったいってば」
「うん……きれいな白髪だなと思ってね」
「嫌じゃない?」
「嫌なものか。きみのぜんぶが何よりも愛おしいのに」

朝から平然と煮詰めた砂糖くらい甘いことを言ってくる。そんなワタルさんの爽やかでストレートな愛情表現に慣れてきた部分はあるといっても、やっぱりこれだけ甘い言葉を立て続けに囁かれると恥ずかしいわけで。
後ろから私の身体を捉えたまま、冷蔵庫に向かわせてくれないワタルさんの前では朝食の準備に取りかかることもできず、何も乗っていない包丁とまな板を前に、赤くなった顔を隠すようにして俯く。といっても、私を後ろから抱きすくめるワタルさんから見れば、耳まで真っ赤になってるだろうから無意味ではあるんだろうけれど。
案の定、後ろで小さく笑う声がする。ワタルさんのせいだからねとこっちも負けじと小さく呟けば、きみに色んな顔をさせられるのはおれだけの特権だからとこれまた甘い言葉を重ねて言われてしまった。

「きみがの髪がどんな色でも、おれが大事にしたい子に変わりはないよ。おれを自由にさせてくれて甘やかしてくれる、きみには本当に敵わない」
「敵わないのはこっちの方! 甘やかしてくれるのも、いっつもワタルさんの方だから……」
「もっともっと甘やかせるけど、どうかな」
「あ、朝から胸焼けしちゃうので結構です!」
「ははは!」

今度は朗らかに笑って、それからワタルさんはひときわ強く私をぎゅっと抱きしめた。耳元で囁かれるのは本当に心臓に悪いので、甘やかしの申し出をお断りして身をよじる。ぐるりと身体を反転させたら、いままで後ろで笑っていたワタルさんが見上げたところにいて。目が合って、一緒に笑って、それからゆっくりと落とされる唇にそっと目を閉じた。