「お酒を飲んでそのまま、というのはフェアじゃないと思ってたけど、そうも言ってられなくなったよ」
馴染みのバーでお酒を飲んだあと、普段よりも酔っぱらって視界がゆらゆらする私を性急にホテルに連れ込んだダイゴは、余裕が無いような早口で言い訳じみたことを言うと、シャワーを浴びることも許さずに大きなベッドに抱えた私を降ろした。
ここまでゆっくりと歩を進めてきた私にしびれを切らしたのか、ホテルの部屋に入ってからは早かった。まさか、いつも優しく微笑んでいる華奢そうなダイゴが私を抱え上げることができるくらいに力持ちだとは思ってもみず、驚いている間に私の背中にはベッド、視界にはダイゴの顔と天井があって。ああなるほど、石の採掘でインナーマッスルとかなんとかが鍛えられたのかと、まるで他人事のように考えながら、降りてくる彼の顔を両手で止めた。
「シャワー浴びないと、やだ」
「余裕がないって言ったよね」
「ダイゴの都合は知らない。それくらい許してくれないと、これ以上はだめ」
「……、……わかった」
渋々、本当に渋々といった顔をして、ダイゴはのそのそと私の上から退いた。はあーっと深いため息をついたダイゴが、ベッドサイドに腰掛けながら、そのきれいな銀髪を片手でがしがしとかき混ぜる。どうやら彼自身、自分の感情と欲の勢いに振り回されているらしい。かくいう私も視界は揺れるけど意識はそこそこはっきりしてるし、迫られたからか、流されたんだか、ここまで来てしまったのは否定しようが無い事実ではあるけれども。
今日って可愛い下着つけてきてたっけ、いつもダイゴとは楽しく飲むだけで終わりだったから気を抜いてたなと、彼との急展開に上手く回りきらない頭を回転させながら、ぼんやりとシャワールームへの道すがら着ていた服を脱ぎ始める。後ろから「勘弁してくれ……」というダイゴの珍しいくらい動揺した声が聞こえてきて、ようやく現状に気が付いた。そこまで頭が回らないとは、相当に酔っぱらっていたらしい。
「やだ、家の気分だった。あはは」
「分かったから、早く入ってきてくれるかな。それともボクを試してる?」
「試してなあい」
もう一度声を上げて笑う。振り返った先、ベッドサイドに腰をかけて、片手で頭を抱えた指の隙間から私を見るブルーの瞳は、ここから見ても欲情で濡れているのがよく分かって。もしかしたら今日って長期戦になるのかもしれないなと、少しだけ酔いが覚めた気がした。
***
「……真水のシャワー浴びた?」
「どうしてだい?」
ダイゴとの始めてのキスは、バーでしたからかお酒の味がした。二度目以降のキスは、何度も重ねられて味なんて分からなかった。シャワーから出て、他愛もない話をしているうちにベッドに再び組み敷かれ、慈しむようなキスと求めるようなキスを次々と与えられて、それでも嫌じゃないと思うあたり、私もまんざらではなかったんだなと安心する。
一瞬唇が離れたとき、なんとなく伸ばした手を彼の頬に滑らせた。冷たくて、熱い、なんともいえない体温に、ベッドの上で首を傾げる。私の手のひらに擦り寄るようにして目を細めるダイゴに思ったことを口にすれば、その顔がほんの少し揺れた。冷静に返ってきた声は、心なしか固い。
「顔、なんか冷たい」
「……きみは、妙なところで鋭いよね」
「あはは、褒めてる?」
「褒めてないよ。酔ってるなら、徹底して鈍感であってくれると助かる」
「ひどいなあ。私が酔って今夜の記憶全部飛ばすとでも?」
「……」
「?」
長い付き合いだからか、結構言うときは言うダイゴの言葉はベッドの上でも容赦がない。だけどその言葉に今さら驚くでもなく、逆にダイゴがいつもよりもどこかふて腐れたようなことを言うものだから、私も思わず拗ねたような言い方をしてしまった。そんな私に、目を見開いたのはダイゴの方で。
私がそんなことを言うとは思っていなかったんだろうか。固まったままのダイゴの頬に触れていた手を、スルスルと首筋まで持っていく。その感触にびくりと身体を揺らしたダイゴが、少しして諦めたように息をついた。ぎゅうっと抱きしめられた身体は、信じられないくらいに熱くて。
「ご名答だよ。冷たいシャワーでも浴びて冷静になるつもりだった。こんなとこまで連れ込むくらい、今日のボクは本当に余裕がなくて」
「うん……なんとなく知ってた」
「いや、きっときみの想像以上だよ。きみと飲むたびに期待しまくってたボクのみっともない劣情なんて、きみは知らないはずだ」
「れつじょう……」
ダイゴの口から聞くことになるとは思っていなかった言葉を、思わず復唱してしまう。劣情、つまりそういう欲。お上品に優雅そうに私がお酒を飲むのを眺めていたダイゴは、毎回そういうことを考えながら私と飲んでいた、ということで。一杯だけと言って飲んだ日も、軽く満足する程度に飲んだ日も、浴びるように飲んだ日も、友人だと思っていたダイゴは、私との関係に期待というものをしていた、のだろうか。
ゾクゾクと、背中を得体の知れない何かがのぼっていく。思わずその身体にしがみつくと、背筋をのぼってきた何かを吐き出すようにして熱い息をこぼした。ダイゴが、息を飲む音が聞こえる。
「期待してる、気がする。私も」
「……きみも?」
「いま、すごいゾクゾクした。期待した。ダイゴとそういうことするの」
「っ、」
「ダイゴと違って、今だけかもしれないけ、」
その先の言葉は、強引に唇を塞がれて喉の奥に消えた。さっきまでの探るような触れるキスとは違うそれは、たぶんダイゴの本気で、私の全部を欲しがるような動きに、私も必死で答えてみる。頬に首筋に触れた手を、彼の耳に持ってくる。そんなことをしたら、もっと火をつけることは分かっているのに。
「そんなことされたら、煽られてるって受け取るけど、いいのかな」
「……煽ってたりして」
「ああ、もう、」
熱に濡れたブルーの瞳が、それ以上耐えきれなかったのか閉じられる。首筋を這うぬるりとした感触に、このまま好きなようにして好きなようにされてしまえと、全てを身体に残るお酒のせいにして、私もそっと目を閉じた。