「明日は何しようかな。お出掛けもしたいけど、家でのんびりもしたいし……ワタルさんオススメの本も読みたいし、でもやっぱりワタルさんと出掛けたい!」
「はは、楽しそうで何よりだよ」
薄暗い寝室で、既にベッドに入ってぬくぬくと温まっていた私の隣にワタルさんがその大きな身体を滑り込ませる。少しでも冷気が入らないようにと、なるべく少ない動作で入ろうとしてくれる優しさが多少申し訳なく、だけど自然とニコニコしてしまうくらいに嬉しくて、私は明日の予定もどきをつらつらと述べながら、隣に寝転んだワタルさんを見つめた。
ワタルさん自身も、そんな私に視線を向けられることを察していたのか、腕を枕にしながら私に向かって微笑みかけてくれている。空いた方の腕で掛け布団をぐいっと引き上げて、それから腕を引きつつ私の頬を優しく撫でた。
「おれはきみといられるなら、なんだって構わないよ」
「……ワタルさんの懐の深さ、世界一だよね」
「そうかい?」
「ワタルさんの口から拒否の言葉を聞いたことがない」
「はは。きみに甘えられて、断る理由はないからね」
本当に、甘やかしすぎてる自覚ありますか? というほどに私のワガママを二言返事で聞いてくれるワタルさんは懐の深さがシロガネやま並みだと思う。断られた試しがないのが逆にちょっと恐ろしいくらいで、逆に無理難題を言ってみようと思ったことは数知れず。とはいえ、ワタルさんに困ったように微笑まれると心苦しいので、そんなことはできないんだけれど。
ワタルさんの腕が、私の腰を引き寄せる。ぴったりと寄り添って、すでに温かかったベッドの中がさらに温かくなったような気がした。ワタルさんの体温が加わったこともあるけれど、きっと私の体温が上がったことも関係しているに違いない。その胸板にすり寄るように顔を埋めれば、ワタルさんは小さく笑って私の身体を抱きしめた。
「明日は早起きしないといけないね」
「……絶対にワタルさんより早く起きるので」
「? それはなんの宣言だい?」
私のただならぬ雰囲気を察したのか、ワタルさんは私の身体を引き寄せていた腕の力を緩めると、低く唸った私の顔を覗き込んだ。その顔を見るに、本当に何も分かってないらしい。思わずワタルさんの胸板をペシペシと叩いてから、キッとそのグレーの瞳を睨み付けた。きょとんとするワタルさんが、わたしのにらみつけるでぼうぎょりょくが下がる気配はない。
「いっつも休みの朝はワタルさんが朝ごはん作ってくれるから、今度こそ私が早く起きて朝ごはん作るからね!」
「……ああ、なるほど」
本当に、ようやく分かったみたいな顔でワタルさんは頷く。なんだか私だけが必死みたい。……いや、実際必死なのは私だけなんだけど。
「ワタルさんは早く起きてもベッドから出ずに、私を起こすこと」
「おや、おれが作るご飯では不満かな」
「ふ、不満なわけがないから逆に申し訳ないの!」
そういうのは本当に本当にずるいと思う。眉を下げて、だけど微笑んだまま言われると私の良心が痛んで仕方がない。そして、そういうのに私が弱いということを分かっていないわけがないワタルさんが、そんな技を使ってくるなんて。私はうっと顔をしかめてから、ワタルさんの胸板に手を添えた。夜の寝室で、少しだけ大きな声を出してしまったことが恥ずかしい。
「おれがしたくてしてるんだよ。それに、きみの寝顔を見ることがひとつの楽しみだからね」
「!?」
「はは! さて、早く寝ないとおれよりも早く起きられないよ」
さりげなく、とんでも発言をされたような気がする。受け取りかたによっては、私の寝顔を見て楽しんだうえで、ついでに朝食を作っているような発言。反論の言葉が出ないでいる私に、ワタルさんは優しく微笑んだ。胸板に添えていた私の手を握りしめて、挑戦的な言葉を投げ掛けながら。思わず、空いた片手で顔を覆って小さく呻いた。
「うう、ワタルさんのいじわる……」
「こう見えておれは意地悪だよ。気を付けた方がいい」
「気を付けます……」
「うん、いい子だ」
私をとことん甘やかして、ワタルさんは満足そうに私を抱き寄せた。温かいベッドの中で、ゆるゆると頭を撫でられる。私がそれに弱いことだって、ワタルさんにとっては熟知した情報に違いない。いつもより優しく髪をすかれてあっという間に睡魔に負けてしまう私に、ワタルさんはふわりと微笑んだ。
「おやすみ。いい夢を」