かみつく

「ワタルさん……ワタルさん……」
「ん?」
「疲れたからチューしましょう」
「……ほう」

 いやもう自分が何を言い出しているのかイマイチ理解できてないでいた。もう疲れすぎて、くたびれすぎて、とりあえず思ったことを口にしているのは確かで。そしてそれを聞いたワタルさんが、少しだけ驚いたような表情をしたけれど、何かを察したようにパタリと読んでいた本を閉じた音がした。ぐったりとソファーに沈んで目を閉じる私の頬に、ワタルさんの大きな手が触れる。するりと頬を撫でられて、親指で唇をフニフニと弄ばれて、それからぎしりとソファーが軋む音がした。目を閉じていても分かる、暗くなった視界に薄く目を開く。
 ワタルさんの表情が見えて……いや、見えてしまい、ちょっとだけ後悔した。

「おや、目を閉じないでした方がお好みだったかな」
「すごい、本気の顔を、していたものですから……」
「本気にもなる。きみがこうして、無防備に喉を晒しているんだからね」
「え? ちょ、何をっ」

 私の頬を撫で唇を弄んでいた手が、私の目を覆うように塞ぐと、そのままぐいっと喉をさらけ出すように首を反らされた。まさかそんなことをされるとは思わず、抵抗もできぬまま無防備になった喉にワタルさんの唇が寄せられる。べろりと、ぶあつい舌で舐められて、思わず上擦った声が漏れた。ワタルさんが、喉の奥でくつりと笑う。

「獲物を前にした竜に喉を晒したら、食べられてしまうよ」
「ッ!」

 額を押さえ込まれてしまえば起き上がることも困難で、無防備に晒し続けている喉にワタルさんは再び口付けた。普段は攻められない場所を執拗に攻められて、それからぢゅうっと言ういやらしい音で吸い付かれて、ただでさえ頭が回りきっていないのに、さらに混乱してくる。自分がいま何をされているのか、そもそも何を求めたつもりだったのか。不意に頭を過った言葉を、吐息混じりに吐き出す。チューしたい、チュー。
 喉から唇を離すと、ワタルさんは落ちてきた髪を鬱陶しそうに後ろに撫で付ける。ふう、と熱っぽい息をひとつ吐き出して、私の顎に手を添えた。

「きみのおねだりは、なんだって聞いてあげたくなるな」

 返事すら待つことなく、噛みつくようにキスを落とされる。こんなに荒っぽいことになるとは思ってなかったのにと、ぐらぐらする頭の中で考えたりするけれど、やっぱり疲れた身体では何も考えられなくて、結局最後までされるがままになってしまうのは、どう考えてもワタルさんが元気なのが悪いわけで。