「今日はパシオの子供たちにプレゼント配ったりするんですか?」
「……突然なんだい?」
「いやあ、ワタルさんなら喜んで手を貸してくれるのかなって、思いまして」
広場が見渡せるテラスのあるカフェで、甘くないカフェラテを片手に、可愛らしいデコレーションのされたケーキを頬張る。甘すぎず、ちょうどいいクリームのそれはついつい手が出てしまう美味しさで、私は一気に食べ尽くしてしまわないようにゆっくりとフォークで切り分けた。
そんな私の前には春夏秋冬の季節関係なくいつも通りの服に身を包み、今日も今日とてドラゴンつかいのユニフォームであるマントを欠かさず身に付けたワタルさんが、ブラックのコーヒーを片手に私の言葉に耳を傾けてくれていた。そんなワタルさんにもケーキを勧めたけれど、甘いものはあまり好まないんだと本当かどうかわからない言葉でやんわりと拒否されてしまい、私だけがケーキをつついている。季節限定のケーキに乗っている人形も、なんだか寂しげだ。
これあげます、と砂糖でできた人形を口元に差し出すと、少しだけためらったワタルさんは眉を下げながら私の指からそれを口に含んでくれた。きゅっと眉を寄せて、それからコーヒーで流し込むようにしたのは可哀想だったけれど。人形が。
「さっきメイちゃんとフウロちゃんが、パシオでプレゼントを配ろうというような話をしてまして」
「はは、それはずいぶんと可愛らしい提案だ」
「ワタルさんならサンタクロースが出来そうだなって思いながら、ここに来ました」
「それは光栄、って言っていいのかな」
「面倒見が良いお兄さんっていう意味ですので、光栄に思ってくれて良いかと」
「まあ、フスベでは子供たちの面倒を見るようなこともあったが……」
「……お兄さんってより、お父さんですね」
「お父さんか」
ワタルさんがカチャリとコーヒーカップをソーサーに置く。私も飲み込んだケーキの甘さを堪能しながら、カフェラテに口をつけた。ほっこり暖かいそれは、パシオの寒空の下では絶妙で。ふっと吐いた息は、白くなって消えた。
広場では、サンタクロースを模したおじさんや、プレゼント片手におおはしゃぎする子供たち、それから仲睦まじく寄り添うカップルなど、色々な人たちが集まっていた。地元のジョウトでは、クリスマスというイベントは元旦より重きを置かれていなかったので、なんだか新鮮な光景で。
日中、フウロちゃんとエリカさんが一生懸命飾りつけをしていたツリーがきらきらと光を反射していて、それを見に集まった人もいるんだろう。その姿をぼんやりと見つめていると、ふとワタルさんがテーブルに身を乗り出すようにして私の前に何かを置いた。
「手伝ってくれと言われていれば、おれは喜んでサンタクロースになっていたし、父親の真似事だってできたかもしれない」
「……これ」
「メリークリスマス。だけど今日という日におれがプレゼントを渡すのは、きみにだけだよ」
目の前に置かれた紙袋に恐る恐る触れる私に、優しく微笑んだワタルさんが開けてごらんと促す。紙袋の中には小ぶりでお上品な箱が入っていて、見ただけでそれが高級なものだと分かった。
念のために言っておくと、私とワタルさんは一応そういう関係にある。私のような一般トレーナーと、セキエイ高原にあるポケモンリーグ本部のチャンピオン様がどうしてそうなったと思うかもしれないけれど、至るまでの過程はそこそこあったので、割愛。ワタルさんにはいつも、おれがきみのものだと話してほしいと言われるけれど、恥ずかしすぎるのでやっぱり割愛させてもらうとして。
高級そうな箱から出てきたのは、プラチナシルバーのブレスレット。フォーマルすぎないそれは、普段身に付けることも出来そうだった。……いや、もしかしたらワタルさんのことだから、それも想定内だったりして。
「すごい、かわいいです。これ」
「きみに似合うと思ったんだ。普段から身に付けることが出来るだろう?」
「うん……」
「ネックレスと悩んだんだが、見えるものが良かったんだ。見えた方が、おれも安心できる」
「……その心は?」
「ちょっとした独占欲かな」
ニコリと爽やかに微笑んでいるのに、言っていることはあまり爽やかでなくて苦笑いする。そしてやはり想定内だった。全てはワタルさんの手のひらというわけだ。
もちろん、うれしくないわけはなかった。聖人君子、清廉潔白なワタルさんの珍しすぎる欲をぶつけられるのはちょっと優越感すら抱いてしまうくらいで、気を抜けばニヤニヤしてしまいそうになる。ぐっと口元を引き締めて、さっそく付けてみようと金具をつまむ。
「おれが」
するりと手の中から抜かれたブレスレットが、ワタルさんの大きな手によって私の手に巻かれた。ワタルさんの節張っててゴツゴツとした男の人の手が小さな金具をいじる。決して悪戦苦闘する様子のないところがスマートすぎてずるいところで、かちりと音を立てて付けられたそれは、私の手首をさらりと流れた。
ブレスレットに触れようとする私より先に、ワタルさんの大きな手が私の手を包み込む。私よりも少しだけ体温の低い、爪が切り揃えられた指先が、私の手首をするりと撫でた。
恭しく手を取られて、指先に寄せられる唇に、一瞬ここがカフェだということも忘れてしまった。
「よく似合ってる」
「あ、ありがとうございます……」
「ここがカフェでなければ、抱きしめていたところだったよ」
「カフェで良かったです……心臓が破裂しなくてすむので……」
「はは、それは命拾いしたね」
端から見れば物騒に聞こえるそんな会話も、実は甘すぎて胸焼けを起こしそうなくらい甘く、優しい声で囁くワタルさんの声もこれまた甘い甘いもので。取られた手はそのままテーブルの上でぎゅっと包み込まれて、優しく微笑まれて、私は熱い頬を隠すように、やや冷えたカフェラテをごくりと飲み干した。