「もうちょっとで新年ですねえ」
そんな私の呟きに、前にいるワタルさんがゆるりと振り返る。私の呟きが聞こえているのか聞こえていないのか、ワタルさんはふわりと口元を緩めると再び前を向いた。
私の耳に届くのはびゅうびゅうという風をきる音で、そして私たちはいま相棒の背中に乗って空を飛んでいる。雲ひとつない夜空は星が輝いていて、見上げたらすっきりとした月が私たちを照らしていた。もうすぐ新年、だけど正直あまり関係ない仕事を終わらせてきた私たちは、帰路をゆるりと飛んでいる。急ぎではない帰り道、きる風の冷たさにマフラーに顔を埋めたら、心配そうに私を見上げるフライゴンと目が合った。
「今年1年お世話になったね」
「……聞こえてたんですか?」
ワタルさんが私の方を向いているのに気がついたのは、心配そうに私を見上げたフライゴンを撫でたあとで、いつの間にか隣に並んでいたカイリューが私に向かってニコリと微笑んでいる。手元の時計がまたひとつ分を刻む。
「微かだったからね、確信が持てなくて返事しなかったんだ」
「律儀ですねえ」
「おれは律儀だよ」
「知ってました」
「はは、そうか」
からりと笑ったワタルさんの口元からふわりと白い息が流れていく。私も思わず笑ったら、同じように白い息が流れた。風をきる音と、しっとりと暗い景色が月明かりでぼんやりと照らされる。ちらりと見たワタルさんは、微笑みながらカイリューの背を撫でていた。
「来年も、よろしく頼む」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「あまり仕事では会いたくないところだけどね」
「そりゃあ、仕事で会うときは何かしら起きたときなので……」
「ああ、うん。そうか、そうだよな」
「……?」
いつも何時もはっきりバッサリ言うワタルさんが珍しく口ごもる様子に、マフラーに顔を埋めながら首を傾げる。私が何か口を滑らせてしまっただろうかという心配は、すぐに杞憂だと分かった。否、分からされたというか。
「きみにははっきり言った方が通じるか」
「はっきり……?」
「仕事以外で会うことはできるかい? できれば、きみの時間が取れるときに」
つまり、つまりは。ほうと吐いた息が流れて、マフラーに埋めたからあたたまったわけではない熱が頬を赤く染める。なにも言えずに固まる私に、ワタルさんはやさしく目を細めた。
「デートのお誘いをしたつもりだったんだが、どうかな」
ノーなんて言葉は用意してませんよと、震える声で「はい……」と呟くだけで精一杯だった。