かっこいいので

「…………」
「まさか顔も見せてくれないとは」
「ちょっ、と、攻撃力が高すぎではないでしょうか」

 両手で顔を覆う私に、ワタルさんが小さく笑う。顔は見れないので雰囲気だけだけど、きっと困ったように笑っているに違いない。だからといって手を退けられないでいる私に、ワタルさんは穏やかな声で私の名前を呼んで、それから問いかけた。

「どうして」
「どうっ……て、見慣れない服のせいで……」
「せいで?」

 意地悪だ。ワタルさんは本当に意地悪だ。一度それを指摘したら、さらりと「知っているよ」と言われて以来、完全に確信を持って意地悪を言ってくるワタルさんの声色は、いつも楽しげに弾んでいる。今日も今日とて、例のごとく楽しげな声に、私は思わず食い気味に答えた。

「ワタルさん、が、かっこよすぎて直視できません、ので」
「はは、そうか。嬉しいなあ」
「待ッ……爽やかに笑いながら手を退かそうとしないでください!」
「きみの顔が見たい」
「ううっ」

 爽やかに朗らかに聞こえていた声が、優しく甘ったるく囁かれる。ワタルさんに甘やかされると本当に弱くなる私にとってその言葉は抗えるものではなくて、だけど今日ばかりは直視できる自信がないと頑なに顔を覆っていた手は、ワタルさんの力によって難なく引き剥がされた。かっこよすぎて、直視できない。その事実を知っていて私の手を引き剥がしたワタルさんは、ニコリと微笑んで私の手をぎゅうっと握りしめた。

「やあ、ようやくきみの顔を見れたよ」
「……私は見れません、けれども」
「どれ」
「〜っ!」

 珍しく強引な手付きだった。両手に握られた私の手を片手で纏めてしまったワタルさんの空いた手が、私の顎を掬う。そんな技、今までしたことなかったじゃあないですかという反論は、喉元まで出かかって引っ込んだ。私を見る目が、あまりにも、鋭くて。細められた瞳は、慈悲の瞳なんかではなく、何もかもを飲み込んでしまうような色をしていて。

「た、べられそうな気持ち、です」
「きみが望むなら」

額同士がぶつかって、至近距離で見つめられる。これ以上は逃げられないことを悟った私は、そっと目を閉じて口をつぐんだ。