「こたつ最高」
「それは良かった。はるばるジョウトから持ってきたかいがあったな」
こんな素敵な文明の利器を全世界に発信しないなんて、向こうの地方は本当にもったいないことをしてますね。こたつに入りながらもテーブルに頭を預けたまま呟く私に、本を読んでいたワタルさんが顔を上げてくすりと笑う。そうかもしれないね、なんて言いながらも伸ばされた手は私の髪をさらりと撫でて、そのくすぐったさに口元が緩んだ。
「ふふ……このまま寝れちゃうな……」
「きみならやりかねないと思ってたけど、それは駄目だよ。風邪をひく」
「やりかねないと思ってたんだ……」
「ナマエは放っておくと何をするか分からないからね」
私は赤ちゃんか。
まるで赤子のような扱いに、ワタルさんからの信用度が低すぎるなと苦笑いする。いや、信頼はされているけれど、手間のかかる子供扱いをされているというか、甘く見られているというか。もしかしてバカにされてるのかもしれないけど。
目を細めて笑っていたワタルさんの、いつもは鋭く上げられた赤い髪がふわりと揺れた。きれいな色だな、とぼんやり見つめている私に、ワタルさんの大きな手のひらが伸ばされる。その指先が私の髪をひと掬いして、それからするすると指の隙間から落ちていく。ワタルさんの優しい視線を受け止めながらも、私は少しだけ唇を尖らせた。
「もお……ひとを子供扱いするんだから」
「……大人の扱いをお望みかい」
「うーん……大人の扱い、っていうと……なんかちょっと、多義的に聞こえるけど」
「おや、察しがいいね」
「……まっさかあ」
ニコニコと微笑んでいるのに、言っていることが妙に生々しい。冗談でしょう、という声でワンクッションを挟むと、ワタルさんはしれっとした顔でテーブルに頬杖をついた。
「今日はあまり手加減できる気がしないけど、それでも構わないなら大人の時間を設けようか」
「おとなのじかん、って……」
「それをおれの口から言わせるのかい?」
「ま、ままま、待った! 言わなくていいです!」
身体と一緒にこたつに突っ込んでぬくぬくと暖めていた両腕を、冷えてしまうことも気にせず待ったの声と同時に目の前に突き出した。いやいや、爽やかに言ってるけど内容が内容なだけに、安易に頷くこともできやしない。ワタルさんか楽しそうに声をあげて笑った。ご機嫌そうで、何よりではありますけども。
そんなに大きくないこたつ、突き出した両腕はワタルさんのすぐそばで止めたけど、ワタルさんは驚く様子もなく笑っていて。テーブルに乗せていた手のひらで、笑った拍子に落ちてきた髪を軽くかきあげた。ちらりと、いつものワタルさんの鋭い瞳が一瞬だけ私を射抜く。どきりと心臓が跳ねた。
「ははは! 気が向いたらまた誘ってくれると嬉しいよ」
「うう、誘ったわけじゃないのに……」
綺麗に誘導尋問された気がする、と思いながら、もう一度テーブルに頭を預ける。ワタルさんの手のひらが、優しく何度も私の髪をすいてくれた。のんびりした時間、ぬくぬくと暖かい足元。ちょん、とワタルさんの足が私の足に触れた。くすぐだたいと呟いても、退いてくれる様子はなかったけれど。
「眠る前に寝室に行こう。風邪をひかれたら困る」
「ワタルさんが……頭を撫でてくれるから……眠たくなっちゃう……」
「きみが一緒に寝ようって甘えてくれるなら、添い寝させてもらおうかな」
「……一緒に寝てください」
「うん、喜んで」
ぱちりとこたつの電源を切り、おもむろにこたつから立ち上がったワタルさんが、ぬくもりでとろとろと目蓋を上下させる私のそばまでやってくる。こたつと一体化しかけた私がワタルさんを見上げるより早く、身体をひょいと持ち上げられた。ここ最近ちょっと体重が増えてしまってたのに、まったくものともしないワタルさんは、私を軽々と横抱きにしてみせる。嬉しいような、恥ずかしいような。重くなったとバレてほしくないような。
落ちないように、とそのたくましい首に腕を回して、首もとにすり寄る。ワタルさんが甘い声で私の名前を呼んだ。
「可愛らしいきみが見られるなら、もっと早く導入するべきだったと後悔してるよ」
そんな優しくて甘ったるい声が聞こえてきて、返事の代わりに腕に力を込めた。返事すらままならない私にワタルさんは朗らかに笑うと、極力揺らさないようにしながら、ゆっくりと暗がりの寝室に足を踏み入れた。ぎし、という音と一緒に、身体がベッドに沈み込む。うつらうつらしている私のすぐ目の前で、ワタルさんの吐息が触れ、それから鼻先同士が触れる感覚がした。
「おやすみ、ナマエ。いい夢を」
返事を言う前に、呼吸ごと飲みこむキスをひとつ落としたワタルさんが、私の身体を柔く抱きしめた。ふたりで丸ごと掛け布団の中に潜り込み、もそもそとポジションを確保する。私の頭の下には、ワタルさんの腕。目の前には鍛え上げられた胸板。完璧な防御形態だなあと思いながら、私はあくびをひとつこぼした。