魚を釣るのはやっぱりフロイド先輩みたいに容易ではなくて、それなりに時間はかかってしまった。それに私が釣ることができたのは小さめのものが二匹。薪集めに回った方が良かったかもしれない。薪や枯葉を集めた部員たちが手伝いに来てくれたおかげで課題は難なくクリアできたものの、私はこの調子だ。
ほとんど昼と夜どちらもを兼ねた、簡単な鮎の塩焼きを食べ終わったところで、キャンプ場に他の部活の生徒たちもちらほら戻ってきたようだった。
「日没だ! 課題はここまでとする!」
塩焼きだけでは物足りないなあ、と少しだけ天才料理人が二人もいるバスケ部におすそ分けをもらいに行っていたところで、バルガス先生からタイムアップを告げる声が放たれた。あーん、とフロイド先輩に餌付けされているような状況で、バルガス先生から部活で固まるように言われたので、口いっぱいにホイル焼きにされた魚を詰めながら自身のテリトリーまで戻った。
「ナマエ、何を食べているんだ」
「……バスケ部のホイル焼きです。私が釣ったの、小さめだったので」
「なんだ、言ってくれればまだあったのに」
はふはふとまだ少し熱い魚で口を満たしているのを見たシルバー先輩に聞かれて、行儀良く飲み込んでから返すと、リドル先輩が少し驚いたように私を見た。私もまだまだあるなあ、と思っていたけれど、男子高校生の食欲といえば恐ろしいもので、日々それを実感している私にとってはほぼ必要な分しかとってきていない馬術部員に遠慮すべきだと思ったのだ。バスケ部は人数に対してもあの量だったし。
「呼ばれた部活は、手に入れた『バルガスバッジ』の個数を答えるように。では馬術部!」
「三個、すべて手に入れました」
「陸上部――」
その後も部活の名前が呼ばれていくけれど、全部活、無事にバッジを三つ手に入れることができているそうだ。良かったあ。自分の部活でないとはいえ、どの部活にも顔見知りの同級生がいるので、廃部になってしまえば気の毒だ。それにしても、きっと私を含めて、生徒たちがげっそりと疲れた表情をしている。
「二日目の課題は明日の朝に発表するがその難しさは今日の比でないぞ」
「えっ、どうしよう」
「それじゃあ今日のペースではきっと難しいだろうね。明日はより効率を重視して動こう」
今日はギリギリすぎることはなかったけれど、決して余裕があったとは言いがたい。ただ明日は今日と違って朝から活動をできるそうなので、その分の時間はあるだろう。バルガス先生は「森の妖精たちはいつ何時だろうと焚火を消そうとキャンプ場へやってくる」なんて脅しをかけてくる始末で、そんなことを言うならバルガス先生が追っ払ってくれればいいのに、なんて心の底でひっそりと考える。
「朝まで気を抜かないことだな。それでは……解散!!」
バルガス先生から声が上がると同時に、キャンプ場はざわざわ騒がしくなる。そんなロブスター先生は監督生たちを連れてどこかに行くみたい。
それにしても身体や顔がベタベタするのに、魔法も使えずシャワー室すらもない空間だったらどうしようと思ったけれど、ここから少し離れたところにあるらしい。良かった〜! ただ今行ったらきっと混雑しているだろうから、もう少し夜が更けてから行こう。
「冷えてきましたね」
「ああ。やはり体操着では少し薄かっただろうか」
「ふん、しっかりしおりに目を通さないからだ愚か者め」
日中は少し暑い程度だけれど風は吹いていて気持ち良い気候だったのだけれど、日が沈んでしまえば肌寒い。やっぱりジャケットを着て正解だったなあ。ぱちぱちと音が弾ける焚火の前に手をかざして、それよりさらに近づけば危ないと言われ。マシュマロ焼きたかったなあ。
人によっては沸かしたお湯で身体を拭いたりもするそうだけれど、もちろん私はしっかりシャワーを浴びたい派なので、良さげな時間になったであろう具合で軽くシャワーを浴びてから帰れば、焚火の前に集っていたのは数人だった。もう皆寝たのかなあ。ドライヤーがなくて自然乾燥になるのはいたたまれないけれど、私は髪が乾いてから寝よう。
「……あ、寝てる」
リドル先輩とシルバー先輩の綺麗な顔がそういう作品かのように並んでいるのは、眠っているという表情も相まってだ。すごい、睫毛が二人とも長い。タオルで髪を軽く拭きつつリドル先輩の横に、起こさないように座ると、そんな私の努力なんて虚しく、私の左隣から息を吸い込む音が聞こえた。嫌な予感がする。
「リドル先輩!!!!!!」
「いっ! 鼓膜が……」
「セ、セベク? いったいどうしたんだ?」
シルバー先輩はいつものことといったふうにセベクがリドル先輩に向けて大声を放つ。一番被害に遭っているの、隣にいる私なんだけど、配慮が欲しい。眠りたい気持ちもわかる。今日はいつもの部活動では考えられないくらい動いて、疲れているのだ。
「シルバーはともかく、リドル先輩もうたた寝をしていたぞ」
「う……すまない。もちろん疲労のせいでもあるんだが。そもそも夜更かしというものに慣れていなくてね」
「へえ、やっぱり寝るの早いんですね」
「当然だ。ナマエはモストロ・ラウンジでの仕事があったりで就寝時間は早くなさそうだね」
「そうですね。あとは気がついたら日付が超えていたり……」
ラウンジは割と夜遅くまで経営しているので、そこから締め作業なり片付けをしていると遅い時間になるのはいつものことだ。その生活が馴染みつつあり、眠いけれどまだ我慢できる、な程度である。するとセベクが「テントで休んだらどうだ?」と提案した。セベクはまだまだ元気そうで、背筋もいつもの通りピンと伸びている。
「いいのかい? キミも疲れているだろう」
「僕は野営にも慣れているし、まだまだ平気だ」
「私ももう少し大丈夫なので、見ておきますよ」
「その代わり、シルバーを連れて行ってくれませんか? 目の前でスヤスヤ寝られるのは腹立たしい」
リドル先輩は私とセベクに小さく「ありがとう」と言ってシルバー先輩を起こし、薄くオーロラが覗くと自分たちのテントへと戻って行った。腹立たしい、だなんて。シルバー先輩のお顔の綺麗さなら目の保養にしかならないのに、セベクはきっとマレウス・ドラコニア以外ではそうはならないのだろうな。セベクと二人きりになってしまった空間で、焚火を囲う。ぱちぱち、少し火が弱くなってきた気がするけれど、空気を少し送ればなんとか、という感じだ。また火起こしをするのはあまりにも大変だ。
「あったか〜……でも月明かりと炎しか明かりがないのは心もとないね」
「ああ。しかし人間と違い僕にははっきり見える」
「んー、魔法が使えたら別だし、ランタンでもあれば良かったんだけど……」
セベクの人間への煽りはいつものことに、スルーしつつ話を続ける。月明かりだけを頼りにシャワー室へ行くのはなかなかに大変だった。けれど汗による不快感やらが拭えるならばもちろん浴びない手はない。寮のものより使い勝手は悪かったけれど、しっかりお湯は出るしで最低設備は整っていたので、キャンプともなれば文句だってつけられまい。
「セベクはシャワー浴びないの? 髪って天然だっけ」
「ん? ああ、これは毎朝上げている。次の当番と代わったら浴びさせてもらおう」
「毎朝かあ。やっぱり皆髪型だったりメイクだったり大変なんだねえ」
ふぁ、とあくびをして、目がしょぼしょぼ、視界が少し滲んできたのを、目を擦って元に戻す。
魔法でメイクやらをする人もいるみたいだけれど、細かなこだわりがある生徒は自分でセットしていたりするみたいだ。私は自分でする方が楽しいし、日によって上手くできたり失敗したりというのも自分の手でする醍醐味だとも思う。クルーウェル先生やヴィルさんもきっと、そのタイプ。
クルーウェル先生の言っていた通り、明日の朝からメイクは無理だなあ、と目の前の心地よい温かさの炎も眠さを助長して、うとうとする。首がこく、と落ちて、セベクの肩に体重を預けるみたいなかたちになった。んー、丁度いい高さ。枕にしては少し硬い。筋肉の塊。
「! おい!!!」
「んー……眠い」
「眠るならテントで寝てこい!」
「え〜……セベク一人じゃ寂しいでしょ」
「なっ! 僕はお前たち人間とは違うんだぞ!!」
「あっ、また全人類敵に回してる」
セベクのそういう人間を下に見るところは駄目だって言うんだけどなあ。私は慣れてるからまああれだけど。初対面の人に言ってしまえばあまり良い印象を抱かれないだろうし、けれどセベクは素直すぎてどちらにも転ぶのかなあ。副寮長とは違う、少しの土臭さを感じながらも、温かさの中微睡みに沈みかける。目を瞑って、呂律が回らなくなってくるのを感じながら。
「おいナマエ! テントに戻って寝ろ!」
「ん〜、セベクが連れ……って、やっぱり戻る」
セベクがテントまで運んでくれたら良いのに〜と思ったけれど、眠くても冷静さは顕在。まず、これはないと思うけれどセベクが私に何かしてきたらどうしようっていうこと。いや、本当に有り得ないことで想像するだけで笑ってしまうけれど。もう一つは、その間に妖精に火を消されてしまっては手間だし。それに私は今日いいとこなしだったし。
「おやすみ〜。セベクも早めに休むんだよ」
「言われなくてもわかっている。ゆっくり休むといい」
目をごしごし擦って、落ちかけていた瞼に力を込めて上げると、セベクの肩に左手を置き重心をかけながらよいしょ、と立ち上がって、ひらひら、セベクの方を見ず片手を振ると、眠気に襲われながらもおぼつかない足取りでテントへと入った。んー、今日は疲れたなあ。
◈◈◈
「ん、さむ……」
寝返りをうつと、丁度テントの下には石があったらしく、横腹に硬いものが刺さる。山かつ日も落ちてしまったとなると、それなりに気温が下がるんだなあ。焚火の温かさも、この距離ではわずかに感じる程度だ。こちら側にも火を起こすべきだっただろうか。寝袋の一つも渡してくれないなんて、あの脳筋ロブスター。これで風邪でもひいたらクルーウェル先生に訴えてやる! と思いつつ、限りある毛布戦争に負けてしまったのは私だ。案外焚火の近くだし、覆われているしで大丈夫だと思ったんだけどなあ。明日はレディファーストを有効活用して毛布を使わせてもらおう。そんなことを考えて、伸ばしていた身体を丸めて再び眠りに落ちようとする。のだけれど。
「ん……」
やっぱり眠れない。きっと三時間寝れたかどうか、くらいなのだろう。まだ朝日が昇る気配もなく、目が冴えたかといわれると決してそうではない。しかし、再び眠りにつくのは野宿に慣れていないからなのか、どうも難しかった。こういうときは一度お手洗いにでも行って、外の空気でも吸おう。逆効果の場合もあるけれど。
ジーッとテントの入口を開けて、そういえば今は誰が番をしているのだろうと、ぱちぱち火が燃え続けている焚火のもとへ様子を見に行くと、見慣れた大きな背中があった。
「……セベク?」
「……ん? ナマエか。どうかしたか」
「目が覚めて……いや、こっちのセリフ。番の人は?」
「それが来る様子がないからこうして見ているんだ」
「あらら。まあ皆お疲れだろうから仕方ないけど……」
セベクの隣にまた体育座りになって、ちら、と様子を窺うと、やっぱり何時間もこうしているからだろう。疲れているような表情をしていた。上げている前髪は少しずつ垂れてきていて、それでもなんとかオールバックの状態をキープしているようだった。土臭さはほんのりと漂っている。
「……セベク、シャワー行ってきたら? 火は私が見てるから」
「なに? そんな気を遣われなくとも――」
「気を遣うとかじゃなくて、ベタベタして気持ち悪いでしょ。大丈夫だって、見てるから」
「…………わかった。感謝する」
はぁ、と小さく溜息をついたセベクはシャワー室へ行くらしく、「お礼言えて偉いね」と言えば、「人間風情が馬鹿にするな!」と疲れながらもいつもの調子だった。それにしても、こう何時間も同じように妖精が来ないか見張っているなんて、私だったら番の人のテントまで行って叩き起こすかもしれないのに。
少し火力が控えめになってきた焚火に空気を送り込み、あくまで炎を絶やさないよう注意する。やっぱり、マシュマロでもあれば良かったのに!
数分、十数分の間、ほとんど無に近い状態で焚火を見守っていた。一日目は妖精を含めて色々な障害があったりで大変だったし、二日目は平穏だと良いけれど、バルガス先生のことだしそう上手くいくわけもない。気を引き締めて挑まないと。といっても、馬術部は合宿があるわけでなく、部活でしか交流がないので、こうして夜遅くまで一緒に過ごすことなんて初めての経験だ。どれだけハードでも、チームワークの結束だとかで良い思い出になるのは変わりないだろう、と少し恥ずかしい台詞を頭に思い浮かべてみたり。
そうしてぼーっと、ウェアに穴が開かないようにある程度距離をとって火花が跳ねるのを見ていると、森の奥から緑がかった控えめな光が飛んできた。まさか、確認しなくても、わかる。グリムより大きくて、蝶みたいな羽。昼間に火を起こしたときにも現れた妖精が、三体ほど。
「うわ……」
私は撃退方法を知らない。魔法が使えないなら私は監督生と同じ、ただの人でしかない。魔力を持つ分監督生よりは大きいけれど。とりあえず、近くに転がっていた、太めの枝を持って妖精に向かう。う、セベクやシルバー先輩のように剣術を習っていれば良かった。その手の部活に所属していればこういうときに役立ったかもしれない。妖精が現れたときには私は避難させてもらっていたから、そのときの戦い方すら見ていない。せめて、魔法が使えれば。
「妖精さん、ちょっとお話しませんか?」
持っていた木を落として、私に戦う意思がないことを伝える。温厚に終わればどれだけ良いか。基本的にこちらが敵意を見せなければ、妖精も同じだと授業で習った。けれどそれは、この場合はもちろん例外である。敵意はなくとも、妖精にとって私たちがしていることは敵同然だから。妖精は一瞬だけ驚いたように敵意を消して、しかしそれは本当に一瞬。すぐに三体まとめて私の方に飛びかかってきて、咄嗟に腕で頭を覆うようにその場に屈むと、ダッ、と重く地面を蹴る音が聞こえると同時だった。
「ナマエ!!!!」
キン、と鋭い音が鳴り、その正体は私が先程地面に落とした木の枝で、それと合わせて妖精は弾き飛ばされた。私の名前を呼び、妖精をなんとか諦めさせようと枝を振るのは、薄緑の髪をしたセベク・ジグボルト。私の名前を呼んだ時点でわかっていたけれど、その大きな男の安心感といったら。妖精たちだってもちろん知性も理性もあるので、同じ轍は踏みたくないだろう。セベクとシルバー先輩によって一度追い返された妖精たちは、セベクの姿を見れば一度は抵抗したものの、すぐに諦めて森の方へと帰って行った。妖精も、私が一人になったのを見越して来たのだろう。ふう、と息をつくセベクが額を拭うと、屈んだ私の方を見下ろした。
「無事だったか!?」
「うん、セベクのおかげで……えっ」
「? なんだ、そんなに僕の方を見て」
焚火の明かりに照らされ、わずかに赤くなったセベクの姿に驚いて声を出してしまったのは、私でなくてもこの反応をしたと思う。いつもはオールバックで固められている前髪が、水を含んで垂れていて、いつも「若様!!!」と言っているセベクとはとても結びつかないような印象だった。ひと言で言えば、めちゃくちゃかっこいい。
「セベク、」
「!! もしかして怪我でも――」
「めっっっちゃかっこいい」
「なっ!!!!!???」
心配して私の様子を窺おうと顔を覗き込もうとしたセベクに、素直にかっこいいを伝えると、一気に身を引いて狼狽えた。あ、ちゃんと私の知っているセベクだ。顔の整い方とかのかっこよさならもちろんシルバー先輩が強いのだけれど、こう、ギャップで殺して来るタイプの男だ、セベク。もともと上品な顔だな〜と思っていたけれど、こうも整っているとは。ずっとこうやって下ろしていればいいのに。少し長めで目にかかっているのが、同い歳なのにどこか色気すらあって、うわあ、予想外。
セベクがシャワーを浴びる前同様、焚火の前に座れば、なるべく声量を落として語らいかける。その努力はすぐに破られることになるのだけれど。
「ね、セベク。どうして普段は髪上げてるの」
「もちろん若様を尊敬しているからに決まっている!!!!」
「しっ、皆寝てるんだから」
若様関連になればすぐにこの調子で声を大きくするセベクだけれど、これは馬術部だけでなく他の部活たも迷惑な声量だ。このだらしない姿では若様やリリア様の前には出られない! と言うセベクに、案外ウケがいいかもしれないよ、なんていじってみれば露骨に怪訝な表情をした。若様の前だからってきっちりしているセベクが、こんなにも無防備だ。どうやら雨に降られてしまったときも整髪料が取れてこうなってしまうらしく、私は断然こっちを推していきたいので毎日が雨でも良いくらいだ。これは流石に言い過ぎだけれど。
「整髪料は持ってきてるの?」
「当たり前だろう。いつ何時若様にお会いするかわからないからな」
「流石にキャンプまでは来ないと思うけど……」
マレウス・ドラコニアの話題が一度出れば関連の話が続くのももちろんいつも通りのセベクで、今頃若様は、だとか心配するような声も上げている。やっぱり違うのは髪型だけのようで、わずかに洗剤のような石鹸のような香りがした。当然ながら土臭さはしっかり落としてきたみたいだ。
特に長く、鼻の辺りまで伸びた一房の前髪を掬ってみると、目をカッと見開いて手を後ろにつき、わずかばかり退いた。
「なっ、なんなんださっきから!!!」
「いや、かっこいいなあって。うん、かっこいい」
いつも下ろしていてもいいのに、なんて言おうと思ったけれど、たまに下ろしている、レアな瞬間だからこその良さがあるのでは、ととりあえず「かっこいい」のべた褒めを始めることにした。するとセベクの耳が、焚火の影響か私のせいかでほんのり赤くなっていて、口をあわあわさせて、なるほど、きっと外見を褒められなれていないな? マレウスさんに褒められたときなんかもこういう反応するのかな、と考えて、やっぱりちょっとかわいい。
「さっき助けてくれたのもかっこよかったし、お昼も活躍してたし」
「ふん、若様の護衛として当然のことだ」
「私は何もできていないのになあ」
魚も大して釣れなくて、妖精の撃退にも参加できず。薪拾いに回った方が良かったかなあ、というのは結果論で、きっとそちらを選んでいても何かしらの後悔は生じていたことだろう。唯一の女子生徒というハンデも、こういう場になると大きい。
口角は上げたままに、目を伏せて地面に生えた短い草を触って、ちぎって、ほんの少しの悔しい気持ちを隠すみたいにしていると、左隣から声が降ってくる。
「何故だ? 魔法石を見つけたのは僕だが、それを誘導してくれたのはお前だろう。何もできていない、なんてことはないと思うが」
「……私の心が三年前くらいならセベクのこと好きになってたな」
「すっ!!?? 何を言っているんだ貴様は!!! からかうのも大概にしろ!!!!!」
「うるせ〜」
からかっているつもりは毛頭なくて、ただセベクの言葉に落ちかけていた心が救われたから、つい思ってしまったことをそのまま言うと、耳だけでなく顔全体を真っ赤にしたセベクが声を思いきり張り上げた。そのせいもあって、馬術部員を起こしてしまったらしく、セベクに文句を言いながらこちらに歩いてきた。
「……って火の番してくれてんのか。悪いな、つい寝すぎてたよ」
「ふん、これだから人間――」
「あっ、良かったら代わってくれませんか? 私も休憩が欲しいので」
セベクも寝たいだろう、なんて言うと絶対に「僕は人間と違って」だとかなんとか言われるに違いないので、私が寝たいという体でそうお願いすると、やっぱり馬術部。快く了承してくれた。時計がないのも苦しいもので、交代だって気が向いたらだとか、感覚的なものがある。
よろしくお願いします、と軽く頭を下げてセベクと一緒にテントに戻る。あ、結構近い。お互いに「おやすみ」と言ってテントに入ろうとするけれど、あることに気がついてフロントドアパネルを開けようとしていた手を止め、中に入ろうとしていたセベクに「ねえ」と声をかけると、セベクもその手を止めた。
「今日のこと、色々お礼言えてないなって思って」
「礼だと?」
「うん」
昼間に妖精に追い払ってもらったのだとか、くだらない話に付き合ってもらったのも、それからさっき私を助けてくれて、勇気づけるみたいな励ましの言葉をくれた。それら全部に感謝の気持ちを込めて「ありがとう」と言えば、少しだけ驚いたみたいな顔をしてから、やや暗い中でも認識できる、屈託のない笑顔を向けてくれた。