「……メールは送れるのか」
翌週月曜日の放課後。更衣室で携帯の液晶画面を見ながら、緑間はひとり呟いた。そこに映し出されたのは、普段この携帯電話で受信する機会があまりない、可愛らしい顔文字で飾られた文章だった。
苗字にメールアドレスを教えて欲しいと言われて、内心では送れるはずがないと疑いつつも教えたのだが、まさか本当に送られてくるとは思いもしなかった。
「どうした真ちゃん?」
緑間の独り言が聞こえたらしい高尾がこちらを振り向いた。緑間は反射的にメール画面を閉じた。
「あ、今なんか隠しただろ!なになに?超怪しい」
「別に、隠してなどいない」
「じゃあ見せろよ!」
「見ても面白いモノではないし、そもそも見せる義務はないのだよ。」
「見せたくないってか?ますます怪しいぜ」
「怪しくなどない!」
押し問答すること数分。携帯を高尾に奪われる形でそのメールを見られることになった。
「苗字名前?誰コレ?もしかして真ちゃんの……カノジョ??」
「何故そういうことになるのだよ!!」
だって真ちゃんが女子とメールしてるなんてさ、と興味深げに短いメールを見ていた高尾は、口元ににんまりと笑みを浮かべて緑間の顔を覗き込んだ。
「隅に置けないねえ、真ちゃんも!図書室で待ち合わせなんて!」
「……別に待ち合わせているわけではないのだよ」
「は?だってここに図書室って、」
「苗字がいるのは、秀徳の図書室ではない。」
「…、ふぅん?」
確かに、メールの文面には「今週も図書室にいる」という内容が記されていた。しかし、それを見て緑間が行くべき場所は秀徳の図書室ではない。
よくわからない、という表情を隠しもしない高尾は、しかし緑間の携帯を返そうとせずメールの文面を何度も目で追っている。
「しっかし、ホントに珍しいな、お前が女の子とメールなんてさ」
「……お前に言われる筋合いはないのだよ。」
隙をついて携帯を取り返した緑間は、なおも注がれる高尾の好奇の視線を避けるように素早く鞄にそれをしまいこんだ。
「返さなくていいのかよ、メール。」
「うるさい黙れ。」
既に着替え終わっていた緑間は、これ以上は付き合っていられないとばかりにさっさと更衣室を後にした。
メールの中で苗字が言った「放課後の図書室」とは、緑間にとっての「放課後の更衣室」だ。しかし、今あの不思議な現象が再現される様子はない。それはあの出来事の翌日の木曜、金曜にも確認済みだ。彼女がいた鏡は、何の変哲もない全身鏡として緑間を写し出していた。
「おい、待てって!」
「遅い。」
後ろから駆け寄る高尾の足音を聞きながら、緑間は仮説を立てる。
――水曜のみに起こるのか
―――自分ひとりだけが更衣室にいると起こるのか
全ては水曜になってからだ。緑間は体育館へ足を速めた。
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