Mon.
「じゃあ、名前呼んでくからテスト取りに来てね。他の人のを覗くなんてことすんなよー。はい、一番の人!」
今日はテスト返却日で、苗字名前は日の本高校3年のとあるクラスにいた。彼女の担当教科は数学で、クラス名は『選択数学・演習A』……文系用の数学対策クラスである。
「お前はケアレスミス多すぎ。見直ししろっていつも言ってるでしょ。」
「はい、次。…間に合わなかった?次は時間配分気をつけて。」
「次の人――」
そこで名前の目に入ったのは、自分で書いた赤い100の文字であった。
「石田君。もう言うことはないから。これからもこの調子で。」
そう言って紙を彼の手に渡すと、クラスメートが100点を見にわらわらと彼の元に寄っていく。いつものことだ。自分とあいつの間にもっと人が集まれ、と名前は願う。壁を作ってくれ、と。
ふと、視線を感じた。どうやら本当に、昨日のバーのマスターの言うとおりらしかった。名前はため息をついて、彼の目を見つめた。
「……よくがんばったね。石田君は文系選択だけど何でもできちゃうんだね。おかげでこのクラスが一番平均点高いんだから。」
「平均点あげんな!」とか「お前の所為で俺は赤点だ!」という声がクラスのちらほらと飛んだ。しかし彼はそれを気にせず、私の目を見返している――否、気にできないようだ。
「ありがとう……ございます。」
ほんの一瞬の後に彼はふいっと視線をどこかにやる。長めの茶髪からちらりと覗く耳が赤かったのを、名前は見なかったことにした。
「いいえ。はい、次――」
その後、すべての生徒の答案を返却し終わったが、やはり100点は一人だけであった。
――放課後、名前は数学科研究室にいた。たいそうな名前が付いてはいるが、実際は数学担当教員の憩いの場である。今日、ここにいるのは名前のみ。他の数学科教員は皆会議中だ。彼らとは違い、名前はクラスを持っていなかった。
昨日もここに彼女だけがいたのだが、それを狙ったかのように例の悩みの種がやってきたのだ。
名前は浄水器の水をコップに汲み、懐から錠剤の箱を取り出す。昨日の酒が頭に響いていた。――が、頭痛の原因はそれだけではない。
それを知ってか知らずか、この部屋の戸を叩く者があった。
「はい、どうぞ?」
錠剤と水を口に含み天井を仰いでから戸を振り返ると、そこには予想通りの人物が立っていた。名前はそしらぬふりをした。
「どしたの、石田君?」
「数学のテストの返却はすべて終わりましたよね。先生に伺いたいことがあるのですが。」
「何?」
「俺の他に満点はいましたか?」
「……いるわけないでしょ。」
この子のプライドがいやに高いのは知っていたが、これほどまでとは知らなかった。昨日のバーの、あの器の大きそうなマスターが『生意気だ』と言う理由がよくわかった。
「そうですか。」
彼は何でもないような表情をしているが、口元のゆるみを隠しきれていない。やはり、子供だ。
「それと、先生。もう一つ……」
「なんでしょう?」
「昨日の、お返事を頂きたいのですが。」
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