Tue.
入り口前の階段から足音の反響が聞こえる。客の到来を知った左近は店の入り口に目を向けた。
「いらっしゃいませ。……おや、三成さん。」
そこに立っていたのは左近の良く知る人物であった。彼は無言で左近の目の前のカウンターに座り、ため息をもらしながらテーブルに突っ伏した。
「どうしました?らしくもない。」
「………………左近、だいぶ前に言った女を覚えているか……?」
この男は普段、このように話をいきなり核心から始めることは無い。左近は、三成をここまで揺るがすような心境の迷いを読み取り、それと同時に、一昨日来店した女を思い出した。
「――ええ。喜んでくれそうなことはしました?」
「……その、つもりだ。」
三成はまたもため息をつき、「いつものやつ頼む。」と言った。
「それで?」
「………」
「何か報告するだけの進展があったから此処に来たんでしょう?」
カウンターの男は顔を上げ左近をまじまじと見つめて、「……お見通しだな」と呟き言葉を続ける。
「……女に、…………こくはく、してしまった。」
「頑張りましたね。……お返事は、戴けました?」
「……俺が卒業したらもう一度考え直す、と言われた。」
「成る程?」
「……迷惑、なのだろうな……」
「そうでもないと思いますがね。」
「……」
「本当に嫌だったら考え直すなんて言いません。いくら同情の念があってもね。」
「……そうか…」
「だから落ち込むには早すぎますよ。何せ相手は教員だ、複雑な背景がある。」
「……そう、だな。ありがとう、左近――ん…?待て、いつお前に――」
『あいつが先生だと言った!?』という言葉は、新たな来訪者が派手にドアを開く音によりかき消された。
「おう、久しぶりだあな。……ん?なんで石田の小僧がこんなとこで酒飲んでいやがる?お前の愛する学長に言い付けんぞ?」
入ってくるなりカウンターの少年に絡んだ髭面強面の男は、その隣に腰掛け、ビールと熱燗を注文した。
「……北条先生っ……ノンアルコールですっ!」
「ま、お前が何飲んでようが何も言いやしねぇがな。…んで?どしたよ?」
「悩みのありそうな顔じゃねぇか。」とにやりとしながら三成の顔を覗き込む型破りな教師に、三成は困惑した。
「意中のお相手がなかなかお返事をくれないんだそうですよ?」
「左近っ!」
「青い。真っ青だ。」
男は実に楽しげに言う。その雰囲気に、三成はなんとなく安心感を覚えた。
「で?結局なんて言われた?」
「……3月までは答えをくれない、と……」
「………ほう、3月…ねえ。」
鼻で笑い、煙草にマッチで火を付けながら、男は「わかってんだろうが、そういうのは諦めたほうが負けだ。」と呟いた。煙が天井にゆっくりと上がっていく。
「……」
「お前、1年坊の時から3年越しの懸想だろうが。ガキならガキなりにやれるとこまでやれ。」
「……な、なんで知って…!?」
「そういうとこが青いっつうんだよ。なあ?」
「ははは、まさしく。」
三成は自身の顔が熱くなるのを感じた。
飲み物を一気に仰ぎ、金を出すと、「帰る!」と半ば叫ぶように店を出て行った。
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