出梅3
朝食は、とろとろに煮込まれたおかゆと、梅干だった。そのあとに苦い薬湯が待っていたが、四郎兵衛はその全部を食べきった。
「熱も下がっているようですし、汗を流した方がいいですね」
新野先生に言われて、四郎兵衛は湯殿へと向かった。
保健室を出ると、人の気配がほとんどなく、学園が夏休みに入ったのだと分かる。庭から聞こえてくる声は補習の生徒たちだろう。
脱衣所で、四郎兵衛は自分が下帯を締めていることに気が付いた。昨日、目覚めたときはそんなことまで思い出す余裕がなかったけれど。山小屋で下帯を外したのではなかったか。
しかし、突き詰めて考えるのはひどく嫌な予感がして、途中でやめた。きっと、熱のせいで覚えていないだけだ。
それはさておき、湯を浴びるとずいぶんとさっぱりした。考えてみれば嵐の日から、ずっと風呂に入っていなかった。新しい着物に着替え、四郎兵衛は保健室へと戻る。
今日こそは、きちんと話を聞かなければならない。
「さて、もう分かっているとは思いますが」と前置きをして、新野先生はここ数日のことを話してくれた。
嵐の日から、すでに四日がたち、学園は二日前から休みに入った。四郎兵衛の予想通り、補習者以外は全員帰省している。次屋三之助は補習者ではなかったが、罰として三日間の補習と忍務が課せられたとのことだった。
おととい、任務に出て、それが終わり次第、補習に入るそうだ。
「そして、時友くん。君にも罰があります」
四郎兵衛は居住まいを正した。罰はもとより覚悟の上で、選んだ行動だった。夏休みが全部なくなったとしても、しかたないと思っている。
しかし、新野先生が告げたのは意外な「罰」だった。
「五日間の居残りと、夏休み明けまでの登校禁止です」
四郎兵衛はかくんと首をかしげた。補習でも忍務でもなく、居残りとはどういうわけか。
それも、たったの五日間だ。
「あの、今日から五日間ですか」
「いいえ、明日までの五日間です。そのくらいあれば帰省できるくらいに回復するでしょうと、私が学園長に申し上げました」
「それだけ、ですか」
「それだけです」
新野先生は断言した後、にっこりと笑った。
「君は単独で、誰も見つけることができなかった次屋くんを見つけました。あの風と雨の中、多少向こう見ずな行動ではあったかもしれませんが、その能力はすばらしいものがあります」
四郎兵衛はぽかんと新野先生を見た。
怒られはしても、まさかほめられるとは思っていなかった。
「なにより、誰にも知られないでやってのけたことは、忍たまとしてほめられるべきでしょう」
「誰にも……?」
「ええ、明け方、次屋くんが君を背負って現れるまで、誰一人君がいなくなったことに気付きませんでした」
とっくにばれていると思っていた。だって、四郎兵衛は小屋の中で眠ってしまったのだ。露見する前に戻れていたなんて、思ってもいなかった。
「けれど」と、新野先生の顔が再び険しくなった。
「罰は罰です。いくら元気になっても、明日までは居残っていなければなりませんし、そのあとは新学期がはじまるまで、立ち入ることはできません」
四郎兵衛も神妙になって、「はい」とうなずいた。
学園に入れない、それは宿題や復習を先生に相談できないということだ。
ひとりで、どうにかしなさいと。しかし、それはとりもなおさず、先生方が四郎兵衛の実力を認めてくれたということでもあった。胸のうちに喜びが広がっていく。
「とはいえ、これは六年生の綾部くんが言っていたことですが」
新野先生が笑いをかみ殺しながら教えてくれた。
「時友くんの登校禁止は、次屋くんへの罰だよ。彼に会えないのが一番だろうからね」
聞けば、四郎兵衛の登校禁止を進言したのは滝夜叉丸だという。
金吾もそれに賛同して、この罰が決まったそうだ。
四郎兵衛は耳まで真っ赤になって、うつむいた。
外では、やかましいほどに蝉が鳴いている。
季節はすっかり、夏になっていた。
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