残暑1

「しろ」

 三之助に腕をつかまれて。
 強く、つかまれていて。

 唇が触れる。
 息が、混ざる。

 背中には固い床の感触。

 四郎兵衛は、夢だ、と気付く。嵐の日の、あの夜の、夢だ。

 それなのに、三之助はいつまでもそうしていて。
 あの時は、離れていったはずなのに。

 大きな手が頬をなでる。
 首に触れ。
 背中に回る。

 床はどこへ消えたのか。
 ただ、あたたかな体温に包まれた。

「しろ」

 名を呼ばれて、四郎兵衛は目を開けた。
 あの夜と同じように言葉をつむごうとして。
 なぜか、腕を伸ばして三之助にすがりつく。

 そんなことは、してない。
 なんで?
 ぼくは、なんでこんなことを?

 疑問が浮かぶのに、四郎兵衛は自分を思うように操れない。

「しろ」

 三之助が耳元で、ささやいた。
 ぞくり、と、背筋を得体の知れない感覚が這い上がっていく。
 顔を上げると、もう一度触れる唇。
 くり返される、一度きりの感覚。

 四郎兵衛は、喜びに震えた。


 そして、目を覚ましたあとは。

 顔を覆うほどの恥ずかしさと。
 言い表せられないほどの、後ろめたさに襲われた。

 それが、夏休みのはじまり。


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