残暑4

 四郎兵衛は金吾と一緒に学園の中庭にいた。

 一、二年生は長屋へ帰したが、委員長の帰りを待たずに、委員会を終わらせることはできなかった。
 金吾が唐突につぶやいた。
「最近、どうしたんですか」 
 それはどうやっても四郎兵衛への質問で、思わず目をそらす。「どうもしてないよ」とはひどく白々しい返事だ。案の定、金吾には通用しなかった。
「そのわりには、次屋先輩を避けているように見えますが」
 う、と言葉に詰まった。ごまかしようがない。
 言い訳も思いつかずにうつむくと、「何があったんですか」と聞かれた。誰かに話すことができたら少しは違うだろうかと、心が揺れる。しかし、まだ三年生の金吾に話せることではなかった。
「なんでもない」
「次屋先輩に何かされたんですか」
「そ、れは、ちがうよっ」
 妙に核心を突いた言葉に、四郎兵衛はあわてて首を振る。
「ぼくが、いけないんだ。次屋先輩は何も知らない」
 それは真実だった。
 三之助を見てあわててしまうのは四郎兵衛の問題で、三之助が何かしたわけはない。彼だって、四郎兵衛の態度には疑問を抱いているだろう。もしかしたら、怒っているかもしれない。
 怒って……四郎兵衛を嫌いになっているかもしれない。

 それに思い至って、四郎兵衛は強い衝撃を受けた。
 四郎兵衛が避けているのに、三之助は何も言ってこない。すなわち、四郎兵衛のことなど気にかけていないということではないか。あるいは、気にかけたくない――――?

「しろ先輩!?」
 金吾がぎょっとしたように声を上げた。四郎兵衛はぼたぼたと涙を落としながら、その声を遠くに聞く。
 どうしよう。嫌われたら。
 三之助に会えなくなるのは絶対にいやだと思ったけれど、嫌われるのも同じくらいにいやだ。
「しろ先輩、保健室に行きましょう」
 どこもけがなんかしていないのに、と金吾を見上げると、彼はしろの肩を優しく叩いた。
「僕に言えないことでも、三反田先輩に聞いてもらえれば、少しは違います」
 頭が下がる思いだった。後輩にここまで心配させて、何が四年生だ。
 もうすぐ滝夜叉丸と三之助が帰ってきてしまう。
 その前に。

 四郎兵衛は涙をぬぐって、踵を返した。

「ごめん」


 金吾の返事は聞こえなかった。


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