残暑5
学園にたどり着いた滝夜叉丸は、庭に萌黄の忍服しかいないのを見つけて、眉をひそめた。しかも、その影は滝夜叉丸に気付くことなく、校舎を見つめたまま動かない。
「金吾」
声をかけると、彼ははじかれたように振り返った。たくましく育ったとはいえ、まだ三年生なのだなとほほえましくなった。
「どうした、四郎兵衛は」
「保健室へ行きました」
「なに!?」
思わず声が上擦った。「けがでもしたのか?」と金吾に問う滝夜叉丸を脇目に、三之助は校舎へと足を向けた。保健室と聞いては放っておけない。しかし、それを阻むかのように、金吾が立ちはだかった。
「次屋先輩、だめです」
三之助はかまわず通り過ぎようとしたが、金吾は引き下がらない。にらみつけると、「だめです」とくり返された。
「しろ先輩は会いたくないはずです」
「何でそんなこと、お前に分かんの」
「僕は次屋先輩ではないので、分かります」
その言いように、三之助は胸の奥がざわつくのを感じる。さらに金吾は、三之助をあおるような言葉を吐いた。
「けがや病ではないので安心してください。三反田先輩に会いに行かれただけです」
かっとなった。
四郎兵衛ともうずっとまともに話してない。顔を見たのも、あの嵐の日が最後だ。ひどい努力でがまんしているのに。それなのに、どうして数馬に会いに行くのか。
「どけ」
「できません」
「何を物騒な気を放っているんだ、お前は」
滝夜叉丸が三之助の後ろ頭を小突いた。
言われて初めて、三之助は自分が殺気立っていたことに気付く。見れば眼前に立つ金吾は、腰を落として身構えているではないか。
「まったく、お前たちはどうして、四郎兵衛のこととなると、そんなにもむきになるんだ」
まるきり自分を棚上げした発言だったが、三之助も金吾も、突っ込むだけの冷静さを持ち合わせていなかった。滝夜叉丸はため息をついて、金吾に言い渡した。
「金吾、戻っていいぞ。三之助は私が送り届ける」
一瞬、迷う様子を見せたものの、金吾は頭を下げて、素直に長屋へ戻って行った。
自分がいたところでどうにもならないと、彼も分かってはいるのだろう。それでも、言わざるを得なかった。
滝夜叉丸はそれを見送って、三之助の腕を引く。
「委員長じきじきに送ってやるんだ。ありがたく思え」
「しろのほうがいい……いてっ」
本音を漏らすと、滝夜叉丸が思い切りわき腹を殴った。
「ならばさっさと仲直りをしろ」
という、お言葉つきで。
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