階段を降りてリビングへ入るとそこには10年ぶりに見る母の姿があった。
思わず涙ぐむ私を見つけた母は驚いた顔をし、そしてその綺麗な顔を歪めた。目に涙を浮かべているのが分かる。私が駆け寄ると、母は私を受け止めてぎゅうっと抱き締めた。
「どうしてかしらね。私があなたに会ったのはついさっきなのに、どうしてか涙が止まらないの」
「お母さん……」
「霧島さんに話は聞いたわ。……もう会えないかと思ったのよ、あなたも長い間頑張ったそうね。
……おかえり、紺」
何年経っていても母の暖かさを憶えていて、久しぶりに気が緩んだ私は大泣きしてしまった。もう20年以上生きた感覚なのに自分で感じるこの身体はやはり高校生で、涙は止まらなかった。
元々母子家庭の我が家は母と私の二人きりで、その夜は私の経験してきた事をたくさん話しながら、母にとってはいつも通りの、しかし私にとっては10年振りの母の料理を食べ、幸せを噛み締めた。
「そう言えば霧島さんが言っていたのだけれど、護衛がどうとかって」
「お母さんも聞いたんだ」
「ええ。あなたの、本丸?にいた人たちの中から二人選んだんですって。両隣に住んで、あなたの幼馴染という設定になってるらしいわ」
「え?両隣って……池田さんと、鶯谷さん?」
「そうそう。それで、その人たちはあなたの産まれる10年くらい前に転生?して、もうずっと前からいたことになってるんですって。なんだか難しくって、お母さんあまりよく分からなかったのだけれど、もしかしたらあの二人かなって子たちはいるのよ」
「へ、へぇ……まあそれなら、私が明日確かめてみるよ」
「あら、それが良いわね」
本丸にいた人たちということは、刀剣男士の中の誰かだ、まさかこんのすけじゃあるまいし。それにしても二人って……?
まあ疑問はあるけれど、今日はもう寝て、明日は休んでも良いからまた元気に学校へ行くのよ、という母の言葉に従って寝ることにした。
でも流石に明日は休ませてもらおう。
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