「……とにかく、お前が無事で安心した」



そう言った大包平の顔は本当に良かったと、そう物語っていて、私はつい涙が出てしまう。大包平がな、泣くな……!なんて慌てている声が聞こえるけれど、私はうーうーと声を上げない様に抑えるのに精一杯でそんなの気にしていられなかった。




私がズビズビと泣き止んだところで、大包平がそうだ、と何か思い出したように口を開いた。



「俺は今、大包平ではなく池田包平だ」

「池田、包平」

「そうだ」



今の父は池田輝政の子孫なんだ、と嬉しそうに話す大包平は、思ったよりも幼い表情だった。包平、と呼べば、なんだ、と応えてくれる。それが嬉しかった。








そういえば私と大包平は、本丸にいる頃はたぶん初期刀の歌仙以外では一番距離が近かったのだと思う。何をするにも隣にいた記憶があるし、私もそれがもう居心地が良くて、許していたから。



所謂、上下の関係以上、恋仲未満、なんてやつだった。



それは過去の話だけど、でもやっぱり好きだなあ、なんて考えながら大包平を見ていると、大包平は居心地が悪そうにモゾモゾと身動いだ。ごめんごめん。



「その……なんだ、俺とお前は、あー……そこそこ近い間柄だっただろう」

「えっ、あ、う、うん」



考えていた事について目の前にいる本人から切り出され、予期せぬそれにちょっとどもってしまった。何を言われるんだろう。別に悪い予感がしている訳ではないけれど、ドキドキとしてしまいながら大包平が続きを話すのを待った。



「俺は、……紺、お前を、好いている」

「……え、」



予想していない言葉だった。



「今でも、ずっとだ。あの時、お前の命の危機を知って俺は、ひどく後悔した。何も伝えられずに終わるのかと」

「……大包平……」

「だが、俺には次の世があった。だからもう二度と、あの様な後悔はしたくない……!」

「わ、私……」

「お前は、違うのか?俺はあの時も、この九年間も、ずっとお前に焦がれていた」



かぁ、と顔が熱くなっていくのが自分でも分かる。でもそれは恥ずかしさではなくて、こんな真正面から想いを伝えられたことなど無かったから、照れと嬉しさが混ざったような感覚。


「……っ、」


真っ赤であろう顔を見られるのが恥ずかしくて思わず下を向くと、大包平の気配が不安げに揺れるのが分かった。


でも、大包平が心を決めて言ってくれたのだから、私も誠意を持ってきちんと答えなければそれは失礼になる。初めは俯いたまま、あの……なんて言って目があちこち泳いでしまったけれど、とうとう覚悟を決めて真っ直ぐに大包平を見据えた。



「わ、私も、好き。
……その、大包平が、あ、っと……池田、包平が好き、です」



言い終わった瞬間、ぶわっと顔に熱が集まるのを感じた。今度こそ恥ずかしさが優って俯いてしまう。と、ガタン、と椅子が動く音がした。見れば近付いてくるその人の顔はなぜか険しくて、えっと間抜けな声が出てしまった。


無言で近付いてくる姿になんだなんだと思っていると、ぐいと手を強く引いて立たされる。それに戸惑っていれば、突然ぎゅうっと抱き締められた。



「え、ちょっと、包平?っ、ちょ、痛い痛い!」

「、あ、ああ、すまない……」



そう言って少し力を緩めてくれた大包平はやっぱり大きくて、私なんかはすっぽりと覆われてしまう。本丸にいた頃より幼くなって背丈も小さくなったのか、以前よりも身長差があるように感じた。







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