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やれやれ、と煙草をふかしながら空を見上げると、繁華街の光に眩まされ、弱々しく光る星が見えた。
今日は花京院に呼ばれ、新しく発売されたばかりのゲームの相手になってやったはいいが、アイツ、初心者相手に容赦がねえ。俺もつい熱くなってしまった。気付けば時計は夜9時を指していた。

家に向かって歩いていると、目の前から女が一人歩いてきた。女は眼鏡をかけ、俯き気味だったこともあり、俺の視点からは、そいつの表情は見えなかった。俺の高校とは違う制服を着たその女は、避ける仕草も見せず、そのまま俺にぶつかってきた。

「……んを、?!」

ぶつかった拍子に女の眼鏡が地面に落ちた。そいつは俺の顔を見上げ、怯えたような表情を見せた。

「………」
「………、あの」
「………」
「すみ、ません…でした…」
「…気を付けろ」

俺は落ちた眼鏡を拾い、女に手渡した。女は、礼を言いながら受け取った眼鏡をかけ、ちらり、とこちらを見た。そして、会釈をしたかと思うと、駆け足で駅へ向かっていった。

「……」

変な奴だったな、と思いつつ、俺は家へと再度歩み始めた。







何だかんだでここ2週間ほど、放課後は花京院とゲームで対戦をしている。最近だと戦績はほぼ五分五分だ。俺に負ける度に花京院は悔しそうな表情をするのだった。何度も再戦し、お互い遊び疲れて時計を見る頃には夜遅い時間になっていた。

今日も9時少し前に花京院の家を出た。何故この時間なのか、というと、以前ぶつかってきた女が駅前を彷徨くのが大体この時間だからだ。
ぶつかったあの日から、女はすれ違う度に会釈をしてくるようになった。が、ここ数日は前も見ず、本を読み耽っているようだった。当然すれ違う俺にも気付かない。どうもあいつは何かに没頭すると周囲が見えなくなるタイプのようで、また誰かにぶつかるんじゃあねえかと、ここ数日はあいつが駅に着くまで後ろから着いていく、というのを繰り返していた。男が後ろから着いてきてるのに一切気付く素振りもないので、もう少し危機感を持て、と少々呆れていた。



しかし、今日は駅前に着いて数分待ってみたが来る素振りがない。別に待つ義理もねえか、と思い、家へと向かうことにした。




「……」

帰る途中、普段人気がないはずの路地から音が聞こえた。 音はこちらに向かってくるようだ。
徐々にその音が忙しない足音と、荒い息遣いだということが分かってきた。誰かが何かに追われているらしい。


そして、路地から、後ろを振り向いた状態で女が一人出てきた。見覚えのある制服。以前ぶつかってきたあの女だ。
そいつは、誰に言うでもなく、言葉を漏らした。

「っ、…助けて……」


女が口から漏らした言葉は、俺に向けたものではないことは分かっていた。しかし、目の前に助けを求めている奴がいるにも関わらず、助けもしないようなクズに成り下がったつもりはない。

「……おう、」

一言、返事をしてから、女を追いかけていた男の集団の前に立ち塞がった。
そいつらは俺に対し怪訝そうな顔をした後、その中の一人がヘラヘラと笑いながら近付いてきた。

「その子、お前の知り合い? …残念だけど、俺達その子と今から遊ぶ約束しててさあ… へぶッ?!!!」

男が喋っていることにも構わず、スタープラチナで顔面を殴りつけた。すると、男は一瞬で地面に顔をつけた。他の連中は唖然としている。一瞬のことでなにが起きたのか分からなかったんだろう。
次の瞬間、事を理解した他の連中は繁華街のほうへ一目散に逃げていった。




後ろを振り返ると、へたり混んだあの女が呆然と事の成り行きを眺めていた。

「おい…… 大丈夫か」
「あ…はい、危ないところを助けていただき、ありがとうございました…」

俺が声をかけると、お礼を言われた。意外と冷静なようだ。

しかし、「立てるか」と聞くと、女は体を動かすも、上半身しか動いていない。少し経ってから、

「すっ、すみません、立てそうにないです…」

と、申し訳なさそうに言ってきた。やれやれ、仕方無いやつだ。こんなところで放置するわけにもいかないだろう。俺は女を抱き抱えた。すると、女からは甘い臭いとアルコール臭が漂ってきた。先程の連中に何かかけられたのだろう。

「おい。お前、家は近いのか」
「え?!え、えと…近くではないですね…」

電車か、バスか。いずれにせよ濡れている状態で乗るのは如何なものか。
……考えるのも面倒くせえ。



「…チッ…」

考えることをやめて、俺は女を自分の家に連れていくことにした。その後のことは家についてから考えるとするか。


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