3 学校自体は嫌いじゃあない。だが一人でいると必ずと言っていい程、取り巻きの騒がしい女共が集まって、俺の不快度は増していくばかりだ。やれやれ、これじゃあ学校に来ても勉強さえ満足に出来やしない。そうして昼前には教室を抜け出してしまうことが多かった。 今日も、昼前には本館の屋上で煙草をふかし、横になりながら空を見上げていた。煙の揺らめきをただ何となく見ていると、授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。 そういえば、保健室の一件以来、俺の家に度々顔を出すようになった花京院だが、学校で顔を合わせたことはないな。まあ、別段気に留めるものでもない。奴の学校生活だ、そこに俺がいようがいまいが関係はないだろう。そう思い、眠りにつこうと目を閉じると、先程まで考えていた花京院の声が微かに聞こえてきた。 噂をすればなんとやら、か?いや、噂はしていないが。こうなっては少しばかり気になるというものが人の性、そして俺も例外じゃあない。体勢はそのままに声の聞こえてくる方に目をやると、この本館から少し離れた先にある特別教室棟の屋上に見覚えのある人物と、見知らぬ女が談笑している姿が見えた。 通常、屋上には出入りは禁止されている。ここ、本館の屋上は以前俺が鍵を壊してから、よく出入りしているが、特別棟は普段鍵がかかっているはずだ。何故花京院達は出入りしているのだろう。 暇を持て余していたせいか、少し興味が沸いた。寝ていた身体を起こし、服についた塵を軽くはらい、帽子を被り直すと、俺は本館と特別棟を繋ぐ連絡通路の屋根の上を伝って特別棟の屋上へと移動した。食堂に向かう生徒たちは数分前に移動を終えているため、誰かに見られる心配も少ないだろう。勿論、細心の注意は払った。 隣の棟へ近づくと、会話が聞こえるようになった。 「卵焼きでいいの?花京院くんもお弁当に入ってるけど」 「定番なおかずだからこそ、人によって味が違うからね」 「言われてみれば納得ね。じゃあ私も卵焼きをもらおうかしら」 どうやら花京院は先程の女と一緒に昼飯を食っているらしい。連絡通路を渡り切り、壁を乗り越えると、漂っている弁当のおかずの匂いが俺の食欲を刺激した。そういえば腹が減ってきたな、と思いながら彼らに近づく。 そして女は卵焼きを食べ始めた。その様子を呆然と見つめる花京院は、今まで見たことのない表情をしていた。と、気付くと卵焼きが花京院の握っている箸からするりと抜け落ちた。 気付くと俺はその卵焼きを反射的に指で掴んでいた。 どうするべきか。いや、これで花京院に返すのもおかしいだろうと思い、折角だし自分で食べることにした。砂糖の甘みと出汁の味が口の中に広がる。美味い、が… 「…甘いな」 少し甘すぎる。俺としてはもう少し控えめな方が美味いと思うのだが、先程の花京院の言葉を思い出し、卵焼きなんて人それぞれか、と一人で納得した。 「な、なんで承太郎が…」 「え、ええと…花京院君の知り合い…かな?」 「…ああ」 見てみれば、花京院は驚いた顔をしている。卵焼きのことだろうか。あれは別に俺が奪ったわけじゃあねえし、文句を言われる筋合いもねえ。女はといえば、混乱しつつもあくまで冷静である。というか天然か?こいつは。いきなりのことにも物怖じを一切してない。 「私は名字名前。花京院君と同じクラスなの」 「空条承太郎だ」 「承太郎は僕の質問をスルーしないでくれないか!」 「チッ…やかましい」 そんなにカッカしないでもいいんじゃあないかと、俺は少しイラついた。卵焼きのことで怒るなんて、花京院も案外子供だな。 「二人とも落ち着いて、ご飯食べましょう!卵焼きならまだあるから、花京院君にあげるわ。それとこれ」 そう言って名字は鞄から包みを出して俺に渡した。なんだ、と思い包みを開くとそこには弁当が。こいつ見た目より食うんだな、と思いながらじっと名字の身体をまじまじと眺めた。普通体型のこいつが、二食分も弁当を食うのだろうか。すると、俺の視線に気付いたのだろうか、名字は若干焦ったように言葉を発した。 「あっ、違うのよ。それは私が食べるわけじゃあなくて」 「誰か渡す人でもいるのか? それなら俺が貰うのは違うな。きちんとそいつに渡しな」 「ああ、そうでもないの。花京院君が、お弁当を忘れたら渡そうかなって思って、持ってきたの。このまま食べないで持って帰るのも何だし、食べてもらえると有り難いわ」 そう言われたら断る理由もなくなる。俺は弁当をじっと見つめると、添えられてあった箸を取りだし弁当に手をつけた。ほう、中々の味だ。たまには手作りの弁当も悪くねぇな。 と、痛いほどの視線に気付き目をそちらへ向けると、花京院が羨ましそうにこちらを見ていた。…何となく理由は察してきたぜ。 後でからかってやるか。 [ <<Jogio top ] |