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「承太郎」
「…花京院か」

次の朝、僕は承太郎に声をかけた。相変わらず女子に囲まれており、この場で昨日の話をするのは好ましくないなと思った僕は、昼休みに屋上へ来てくれ、と耳打ちした。承太郎はああ、と短い返事をした後、学校へ向かった。女子達はそれに小走りでついていく。
しかし、現実味のない話だ。囲まれようが何されようが、女子に対して微塵も興味のなさそうな承太郎が、彼女と付き合っているだなんて。







昼休みを告げるチャイムが鳴る。僕は号令を済ませると、急いで屋上へ向かった。屋上にはすでに承太郎がおり、煙草をふかしていた。きっと、前の授業サボったんだろう、と少し苦笑いをしてしまった。

「承太郎、わざわざ来てもらって申し訳ない」
「……花京院が聞きてぇのは、昨日のことだろう」
「、ああ、話が早くて助かるよ。…彼女とはいつから付き合ってるんだい?」

承太郎は煙草を口にし息を吸う。チリチリ、と煙草の火が添えられた指に近付いた。一息おいて、承太郎は煙草から唇を離し、もわっと煙を吐いた。そして最後に吸い終えた煙草を屋上の床に落とし、靴裏で擦り付けた。一連の動作は1分もなかったはずなのに、やたら長く感じた。柄にもなく気が急いているようで、自嘲せざるを得ない。

「…付き合ってなんかねえ……アイツはfuck buddy 、ってやつだ」
「…………は?」

そして、待たされた後の承太郎の回答に、僕は一時停止した。

「なんだ、アイツは花京院の知り合いか」
「…ええ、彼女とは昔家が隣同士で……それより、どういう経緯でセフレに?」
「……オメーはアイツの父親か?」

面倒臭そうな顔をした承太郎は新しい煙草を咥え、火を点けた。浅い息で煙を吸い込んだ後軽く吐き出すと、承太郎は語り始めた。

「アイツがチンピラ共に絡まれてるのを助けてやっただけだ」
「……それは出会いのきっかけですか?」
「いや、セックスするようになったきっかけだな…助けた礼がしてえって言われたからよ」

助けた礼でセフレになることを要求するだなんて、あり得ない。そもそも、誰が許可するだろうか。

「……ッそれは!半ば無理矢理ではなかったんですか?!」
「………さあな」

承太郎ははぐらかすように再度煙草に口をつけた。その態度に、怒りのような感情がふつふつとこみ上げた。このままじゃ逆上して承太郎に対しスタンドを使ってまで攻撃しかねない。

「…すまない、ちょっと冷静に話し合いができる状態じゃあないみたいだ…この話は一旦終わりにしよう」
「……ああ」


苦虫を噛み潰したような気持ちで校舎内への扉のドアノブを掴み、右へと回した。と、その時承太郎が口を開いた。

「おい、花京院。
 ………好きなのか、アイツのこと」

僕は聞こえないフリをして扉を開け、その場を去った。先程の承太郎の言葉は、僕の心を揺さぶり続けた。僕はまだ、小学生の頃の気持ちのまま…名前のことが好きなんだろうか。先程沸き上がった怒りは、そういうことなんだろうか。

「……っ、分からない…」

誰もいない階段に響いたのか、自分の心に響いたのか。承太郎の言葉がずっとリフレインしていた。





「……まさか花京院と知り合いだったとはな…」

絶妙に面倒くさいことになってきた、と思うと無意識に舌打ちしていた。というか、花京院の今にも殴りかかりそうな形相と先程の言葉に対する反応…聞こえないフリをしたようだが、一瞬固まっていた様子から察するに…

「…ありゃあ惚れてるな」

くく、と喉で笑う。まあどんなに花京院がアイツに惚れていようが、俺には関係のないことだ。だが、先程の花京院の言葉が、胸につっかえていた。

違う。花京院が言いたいのは、彼女を"セフレにしたこと"が無理矢理だったのではないか、ということだ。それは理解している。しかし、『半ば無理矢理だったのではないか』という奴の言葉は、礼をしたいという名前に対し劣情をぶつけ、無理矢理抱いた俺を責めた。そのせいで花京院の質問に対して口籠ってしまった、が、煙草を吸っていたことで、すぐに落ち着き言葉を返した。名前の考えていることは俺には分からん。単純に分からないという意味で『さあな』と口にしたが、どうも花京院は勘違いしているような気がした。…というかどうにも俺の言葉足らずが仇となって余計話を拗らせている気がする。





今日も名前を迎えに、名前が通っている学習塾まで迎えにいく。最近は親御さんが迎えに来ることがあるため、駅とは逆向きの一区画先の路地近くに隠れて待つようにしている。名前には親御さんがいなかったら駅とは逆向きに歩いてこいと言ってある。

21時。授業が終わる頃か。
数分後、塾の出入口には先程まで授業を行っていたであろう学生達が談笑しながら出てきた。と、側の街路樹の影から姿を現したのは花京院だった。女子学生は黄色い声をあげ、視線を釘付けにしながら花京院の横を通り駅へ向かっていった。
丁度そこへ名前が出てきた。友人と話していた名前は、花京院の顔を見るや否や、恐ろしいものを見たような表情になってその場に立ち尽くした。

「な、んで……典明が…?」
「名前、久しぶりなのに覚えていてくれたんだね。嬉しいな。……少し話があるんだけど、いいかな?」
「……、ッ」

名前は俯いたまま、言葉を発することはなかった。髪に隠れて顔は見えなくなったが、動揺しているのは態度で明らかだった。花京院は優しい口調で話しかけている割に強引に名前の腕を掴んだ。おいおい、昼間俺に"無理矢理ではなかったか"と追及してきたのはテメェだろう。そう思いながら花京院と名前の後をついていく。人通りの少ない通りに入ると、花京院は名前の肩を掴み、自分に相対するようにした。少し屈んでいるのは、名前の目線に合わせたのだろう。

「名前……最近、友人の家に泊まりがけで勉強しているそうだね」
「……ッだからっ、何…?!」
「…おばさん、心配していたよ。名前のこと。悪い友達とつるんでるんじゃあないかって」
「……そ、そんなこと…!!!」

「悪い友人、つーのはテメェのことか?花京院」
「……な、」

俺は花京院の手を払うように名前の肩を掴み、身体を抱き寄せた。ずっと俯いていた名前の顔を見やると、目にうっすらと涙を浮かべ、困ったような顔でこちらを見ていた。

「見てたぜ。名前の腕を強く握って、"無理矢理"人気のないところへ連れ込んでるところを一部始終な」
「……っ!!」

"無理矢理"というワードを強調すると、花京院は口をつぐんだ。その隙に俺は名前を抱きかかえ、その場を後する。
…丁度チンピラ共から助けた日もこんな感じだったな、と思いながら名前を見下ろすと、水色の下着がうっすらと透けて見えた。


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