1-1. First Trip(Encounter) ここ数年、四月になると夏日になることが多かったが、今年は珍しいことにまだ少し肌寒い日々が続いていた。どんよりとした空模様の中、学生達が傘を杖替わりにしながら登校する声が聞こえる。 そんな中、雨が降らない内に乾くかなあと思いながらベランダに洗濯物を干していると、ふと視界の端に見慣れぬ制服を着た白髪の男の子を見かけた。 体格的に中学生だろう。中学生で髪を染めるなんて珍しいな、なんて思いつつ洗濯物をハンガーにかける。 ふと、この気温にもかかわらず夏服を着ているところにも、また、他の学生は近くの学校に向かっていくのに対し、彼は一人突っ立っているだけなところにも違和感を感じた。そんな彼を気にしながらも洗濯物を干し続ける。 結局、私が洗濯物を干し終えるまで、彼は同じところに立ったまま微動だにしなかった。 数時間後、天気予報の通り雨が降り始めた。 私は急いでベランダに干した洗濯物を取り込む。ふと外を見ると、朝見かけた男の子がそのままの場所に立っていた。 私は驚き『ひっ……』と声を上げる。 まさか、幽霊? と一瞬思ったが、他の人が避けて歩いたり、自転車が避けたりしているので私だけが見えているわけではないらしい。 そんな観察を続けている内に段々雨脚が強くなってきた。なんだか可哀想になってきた私は玄関にタオルを一枚用意し雨用の靴を引っ掛け、傘を持って家を出た。 外に出た私は彼の傍まで近寄り、傘を差し出した。すると、ベランダから見ていたときはずっと動かなかった彼が顔を動かし私の顔を見た。 「あの……大丈夫?」 「……」 彼は喋らなかったけど、ここまでしておいて傘だけ渡して『はい、さようなら』というわけにはいかない。この気温で雨に濡れて大丈夫なわけがないのだ。 私は何も言わない彼の手を取り、自分の家へ誘導する。すると、特に抵抗することもなく彼は私についてきた。 「これ、タオル。使って」 「……どうも」 家に上がってもらいひとまずタオルで身体を拭いてもらう。それでも身体は冷え切っているだろう、とお風呂を沸かす準備をすることにした。沸くまでは少し可哀想だけど玄関で待ってもらおう。 「寒いだろうけどここで少し待っててね。今お風呂沸かしてるから」 「……そこまでしなくてもいいのに」 「そういうわけにもいかないでしょ。君が風邪ひいたら私の寝覚めが悪いもの」 そう言って新しくタオルを用意する。 彼の服を洗濯する間、何を着てもらおうかな。 旦那の服は大きすぎるだろうし、私の服で何かちょうどいいものがあるかな。 とクローゼットを漁っていると、オーバーサイズのTシャツとスウェットを見つけたので脱衣所に用意しておく。 あ、下着はどうしようかな。 コンビニでも行けば買えるだろうけど、流石に知らない子を自分の家に一人にさせるのは防犯上よくない気がする。 そんなふうにバタバタ用意していると、『もうすぐお風呂が沸きます』という給湯器の声が。 その声を聞いた彼は少し驚いたような顔でこちらを振り向く、がすぐに前を向いてしまった。何を考えているのか依然分からない。 その数分後、軽快な音楽の後に『お風呂が沸きました』のアナウンスが流れた。彼をお風呂に連れて行く。 そして早速脱ぎ始めた彼を制止し、まずはお風呂場に入ってもらい、シャンプーとコンディショナー、ボディーソープと洗顔料がどれかを教える。すると、不思議そうな顔をしてそれぞれを見比べた後、私に顔を向けた。 「こういうの……どうやって使うのか分からない」 「え、そうなの?」 「石鹸しか使ったことない……」 「あ〜……」 そういう自然派なお家もあるか〜、と思いながらどうしたものかと考えていると彼から衝撃的な発言が飛び出した。 「だからさ……名字サンが洗ってくれない?」 「……んん?!」 私が混乱しているのを見て、彼は言葉を付け加える。 「別にアンタに裸になれって言ってるわけじゃない……。服を着たままでいいから身体を洗うのを手伝って欲しいってだけ……」 「うぅ〜ん……」 本人が構わないならいいのかなあ。というか、私逮捕されないか……?なんて一抹の不安を抱えながらも彼の提案を承諾し、私はTシャツにショートパンツという格好でお風呂場に入った。彼には服を一通り脱いでもらい、股間の部分だけタオルで隠してもらいながら、風呂椅子に腰かけてもらった。 シャワーをひねりお湯が出るまで少し待ったあと、彼の髪を少しずつ濡らしていく。 「目瞑っててね。お湯、熱くない?」 「ん……大丈夫」 頭皮をマッサージするようにお湯で流すと気持ちいいのか彼の顔が緩んだ。その顔は今までの警戒心の強い野良猫のような顔ではなく年相応に見えて、なんだか可愛らしく思えた。 その後シャンプーを手に取り手のひらで軽く泡立て髪を洗っていく。そのあとはコンディショナー。彼は不思議そうに見ていたがお構いなしに髪に塗っていく。 その後、ボディソープをスポンジに含ませ泡立てて彼の背中を擦る。これも気持ちいいのか、彼はなされるがままになっていた。しかし、背中や腕も洗い終わり、私の手はピタリと止まる。 「あの……」 「……なに?名字サン」 「さ、流石に身体の前の方は自分で洗ってもらえるかな……?」 「ここまでやっておいて今更恥ずかしがらなくてもいいでしょ……ガキの身体なんだからさ」 「ち、中学生はガキではないでしょ……!」 「ククク……冗談だよ」 そう言うと彼は私が手にしていたスポンジを掴み、私に見えないように身体の前部を洗い始めた。 暫くすると洗い終わったようで彼は私にスポンジを渡してきた。それを受け取り水栓をひねり再びシャワーを出すと、彼の身体を覆う泡を洗い流す。ついでに髪につけたコンディショナーも洗い流すと、彼は再び気持ち良さそうな表情で目を瞑る。 身体と髪を流し終えると、洗顔料を彼の手に出し、少しの水で泡を立て顔を洗うように指示した。彼はそれに従い顔を洗う。 そしてなんとか彼の全身を洗い終えた。 なんだか、拾ってきた野良猫を洗い終えた気分。 ふう、と一息つくと彼はこちらを一瞥した後『ありがとう』とぶっきらぼうにお礼を言ってくれた。 「どういたしまして。浴槽、ゆっくり浸かってちゃんと温まってね!」 そう言って風呂場を後にした。 ==================== その日、珍しくふけずに学校に向かう気になった俺は、好天にもかかわらずまだ肌寒い空気の中、通学路をのんびりと歩いていた。学校なんてのは俺にとって退屈しのぎに過ぎない。刺激のない日々の何気ない刺激の一つ。そう思いつつ欠伸を漏らしながら歩いていると、道中で急な目眩に襲われた。 意識が遠くなる中、なんとか立位を保つようにしようと地に足をつけ目を瞑り集中する。止まない耳鳴りの中少しずつ音が聞こえてくる。風の音と子供達の騒がしい音、車の走る音が徐々に耳に馴染んできた。目眩も収まったようで、少し目を見開くと、先程いた通学路とは異なる通学路に立っていた。 自分に何が起こったのか分からずその場に立ち尽くす。 ……ここは…どこだ……? 住宅街のようで、色々な家が立ち並ぶ。 しかし、日本家屋とも洋館とも異なるその家は今までみた家とは少し異なる形をしていた。一つ一つの家がやけに小さい。 先程の目眩のせいか頭に鈍痛を感じたため、暫くの間視線だけを動かし周りを見渡しているとぽつぽつ、と雨が降り始めた。桜の葉から垂れた雫がシャツに染み込んでいく。 最初こそ小雨だったものの数分もすれば本格的に降り始めた。が、どうすればいいか分からず立ち尽くしていると、ぱしゃぱしゃという水飛沫があがるような足音のあと、俺に降り掛かっていた雨がぴたりと止んだ。 「あの……大丈夫?」 「……」 視線を上げると、一人の女がこちらに傘を傾けたまま心配そうに俺を見つめていた。俺は放っておいてくれ、という気持ち半分で何も言わずにいると、彼女は何も言わない俺の手を取り、どこかへ向かい始めた。行く当てもないので素直に従う。 少し歩くと集合住宅に着いた。どうやらここに彼女の家があるらしい。ドアの傍の表札をちらりと見ると『名字』の文字が見えた。 名字さんは傘を畳みドアを開けると、玄関に置いてあったタオルを俺に渡してくれた。『どうも』とお礼を言うと彼女はにこりと笑い、部屋の奥に向かった。 どこからともなくシャワーの音が聞こえ、数分後、彼女がまた現れた。 「寒いだろうけどここで少し待っててね。今お風呂沸かしてるから」 「……そこまでしなくてもいいのに」 「そういうわけにもいかないでしょ。君が風邪ひいたら私の寝覚めが悪いもの」 根っからのお人好し。見ず知らずのガキにここまでしてくれる人は中々いないだろう、と思いながら彼女を見つめる。 ちょこちょこと動き回りながら俺に着せるための服を探し集めているらしい。ぼーっと彼女を目で追っていると、どこからともなく『もうすぐお風呂が沸きます』という声が響く。他にも人がいるのか、とその声の方を向くも謎の機械があるのみで人の気配はなかった。そしてちらり、彼女と目が合った。俺は咄嗟に目を逸らす。 直後、俺の背後を彼女が通った。 その数分後、軽快な音楽の後に『お風呂が沸きました』という先程と同じ声が聞こえた。 と同じくして名字さんが脱衣場から顔を覗かせた。彼女は俺の手を取り脱衣場へと誘導した。俺が早速服を脱ぎ始めると、彼女は焦った様子で俺の動きを静止し、風呂に案内した。 「えっとね、これがシャンプーでこれがコンディショナー、ボディーソープはこれね、で洗顔料はこれ!」 そこには石鹸ではなく色々なボトルが置かれていた。辛うじてシャンプーは分かったが、その他はよく分からない。洗顔料、ってことは顔を洗うときに使うんだろうけど。 ……そうだ。 それぞれを見比べた後、わざと困ったような顔を作り名字さんに声をかける。 「こういうの……どうやって使うのか分からない」 「え、そうなの?」 「石鹸しか使ったことない……」 「あ〜……」 困り眉のまま唸り始めた名字さんに俺は再度声をかける。 「だからさ……名字サンが洗ってくれない?」 「……んん?!」 予想通り、俺の言葉に彼女は混乱した。それを解消するために矢継ぎ早に付け加える。 「別にアンタに裸になれって言ってるわけじゃない……。服を着たままでいいから身体を洗うのを手伝って欲しいってだけ……」 「うぅ〜ん……」 少し悩んだ様子だったが納得がいったのか、彼女は先程よりもラフな格好で風呂場に現れた。Tシャツに短パン。露出が多い格好に若干なりとも意識を持っていかれる。 俺は服を脱ぎ、股関だけ小さめのタオルで隠すような格好で風呂椅子に座った。 シャワーをひねりお湯が出るまで少し待ったあと、彼女は俺の髪を少しずつ濡らしていく。 「目瞑っててね。お湯、熱くない?」 「ん……大丈夫」 お湯をかけながらマッサージするように触られると案外心地よい。されるがまま、俺は名字さんに髪を洗われる。その後、よくわからない液体を髪に塗られた。ぬるぬるとするがこれを流す前に先に体を洗うらしい。 名字さんはボディソープをスポンジに含ませ泡立てたもので俺の背中を擦る。これも気持ちよく、俺は再度なされるがままになっていた。背中や腕が泡に塗れた後、彼女の手はピタリと止まった。 「あの……」 「……なに?名字サン」 「さ、流石に身体の前の方は自分で洗ってもらえるかな……?」 「ここまでやっておいて今更恥ずかしがらなくてもいいでしょ……ガキの身体なんだからさ」 「ち、中学生はガキではないでしょ……!」 「ククク……冗談だよ」 からかってみると彼女は恥ずかしそうに目を背けた。俺は彼女が持っていたスポンジを掴み、素直に自分の身体の前部を洗う。 洗い終えたのでスポンジを渡すと、彼女は水栓をひねり再びシャワーを出した。そして俺の身体を覆う泡も髪につけたぬるぬるの液体も洗い流す。なかなか気持ち良い。俺は目を瞑りお湯ではない彼女の掌の温かさを感じていた。 身体と髪を流し終えると、洗顔料を手の上に出され、少しの水で泡を立て顔を洗うように指示された。それに従い俺は顔を洗う。その後お湯で俺の全身を一通り流すと、彼女は一息ついて腕で額を拭った。そんな彼女に俺は一言お礼を言う。 「……ありがとう」 「どういたしまして。浴槽、ゆっくり浸かってちゃんと温まってね」 にこりと笑うと名字さんは風呂場から出ていった。 風呂場から出ていく際に見えた、彼女の濡れた服から透けた下着に劣情を刺激されながらも俺は大人しく浴槽に浸かった。 [ <<Akagi top ] |