愉しむ外科医



ばふ、音を立ててベッドは突っ伏す〇〇にローは大人しくしろ、と静かに言う。


「身体冷やすな、次シャツ一枚でうろついてたらシメる」

「はあい先生」


病人がふざけた事ぬかすな、と声を荒げたい所だったが、どうにか留めて、〇〇に毛布をかけた。

〇〇は黙ったか思うと薄く目を開けて宙を見つめている。

「どうした」

すぐに返事はない。ただ、頭をこちらへ傾けて、にこりと笑った。



「わたし、迷惑?」

「あァ?」

「ここに居ていい?」


あまりにも哀しそうに笑うから声が詰まった。
ここに、とはこの船を指すのだろうか。今までのドフラミンゴの女は、我が物顔でこの船をうろついてきた。その先も皆同じ道を辿っていったが。
そんな女とは全く違うわけだ。俺もドフラミンゴの女に興味がわいたのは初めてだった。面白い。


「ドフィもローも、みんな、やさしい。けど、わたしには踏み込めないところがある、きっといつかわたしを持て余すわ」


目を閉じて、震える声で押し出すように言葉を出している。いままで抑えてきたものがもう、止められないのだろう。


「もしそんな未来が待ってるなら、飼い主に捨てられる前に、逃げたいのよ。ここに居てもいいって、勘違いだったら怖いの」

笑う〇〇は、身体だけでなく心も弱々しかった。火照った顔で目を潤ませながら、口をきゅっとむすんだ。



「…そんなモン見せながら、言うな」




〇〇の首筋には赤い痕が残っている。探さなくても目に入る、見せつけるかのような場所に。

本当に余計な不安だ。

反抗的に見えて、ちゃんと健気な〇〇ことを、誰もが理解している。まだ、慣れていないだけだ。

あんなに独占欲の強い飼い主、ドフラミンゴが〇〇を手放すはずがない。どう考えても、あのキスマークは所有の印だ。





「…本当に甘えていいの?」

「甘えればいい」



〇〇の余計な不安の存在を、ドフラミンゴは知らない。仕方がない。ドフラミンゴがどんなに〇〇を大切にしているか、〇〇が知らないのと同じだ。

ドフラミンゴの今までを見ているファミリーなら疑いたくなるような行動も、〇〇は気づかない。





バンッ、と大きな音を立てて扉が開いた。ビリビリと痛く感じるほどの殺意が向けられている。こんな殺気を発する人を俺はひとりしか知らない。

〇〇を確認すれば、すやすやと寝息を立てていた。




「…………ロー、てめェ、」

「熱がある。昨日のアルコールも残ってる。身体を冷やさせるな、暑そうだったら汗は拭いてやれ」


どこからかは知らないが、会話を聞いて入ってきたのだろう。ものすごい剣幕で睨まれる。



「側に置いときたくなる気持ちが分かった。…ひとつ言っておく」

ぴくりと固まるドフラミンゴ。〇〇にここまで揺さぶられている彼を見るのはなかなか面白い。





「〇〇はドフラミンゴ様に甘えたいらしい」



少しサングラスの奥の目が見開かれた。

ああ、愉快だ。


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