581202
「五条先生!」
トイレの前で、一年男子二人と遭遇した。
「何、お前ら連れション?仲良いねえ」
「んなわけ無いでしょ」
野薔薇に吹っかけられて三人でガブ飲み競争をした結果らしい。悠仁は律儀に彼女も今トイレにいることを教えてくれた。恵は茶化されたのを気にしてか、すぐにトイレを後にした。二人になるのを待っていたように、悠仁が口を開く。
「先生、なまえは元気?」
「元気だよ。ごめんね、会わせてやれなくて」
「ううん、俺は良いんだ。」
あれからなまえは僕と学長以外に会っていない。外出もしていない。そんな彼女を悠仁が気にかけるのも、当然と言えば当然か。
「なまえの大事な日、もうすぐだなと思ってさ。お互いの誕生日にプレゼント渡そうって約束したんだけど、先生から渡してもらうって言うのもやっぱりダメかな?」
手洗い後の少し濡れた手を添えて耳打ちしてきた悠仁の言葉に、少し驚いた。なまえの誕生日は祝うことを禁じられているからだ。当時まだ青春真っ只中のなまえにはそんなことでも響く何かがあると期待をしたのだろうが、彼女自身も賛成の色を示してあまり意味は無さなかった。だから、なまえが誕生日を告げたことに驚きと少しの動揺を感じている。そして少しの違和感も。
「悠仁、もうすぐって言うにはちょっと早くない?」
「そう?」
内緒だと言われてるからと続けて声をひそめて話す悠仁の言った日付を聞いて、疑問が解ける。そして僕は更に驚くことになる。なまえは、悠仁に自分の大事な日として例のあの日を伝えていた。
「本当の誕生日は祝ったりしちゃダメなんでしょ?それなら大事な日を誕生日の代わりにしようって提案したんだ。結構強引に決めさせちゃったんだけど、なまえがその日が良いって。」
「へえ」
「その日は雨が降ってたんだって。それと、雨の匂いが好きだって。もう出かけることもないから傘も要らないって言ってたけど、いつか傘が必要になるかもしれないじゃん。好きな色とかは聞くの忘れちゃったんだけど、絶対喜ぶだろうなって傘が二本あって、迷ってんだよね」
そう話す悠仁はやっぱり眩しくて、目を細めずには直視できなかった。悠仁が見せてくれた写真の一つを指差して、こちらの方が空を見上げるのに良いと思うと伝えれば、流石だねと言葉が返ってきた。こっちの台詞だよ、悠仁。プレゼントなんて、絶対喜ぶだろうな。
「やっぱり悠仁は最高だね」
「それじゃあ‥!」
「ただし、プレゼントは悠仁が直接渡してやってよ」
ぱあっと一層明るくなった表情を見せ足取り軽く寮へ戻るその背中を見送ってから、僕は"お気持ち"を持って冥さんの元へと向かった。
―――――
「この間はどうも。」
「こちらこそ、良いものを見せてもらったよ」
突然現れた五条君に揶揄うような言葉を返せば、予想外にも謝辞が飛んできた。結論的には宿儺の器と会わせて良かったと言った彼は、早速だけどと足早に本題へと入っていく。
「悠仁がね、彼女に誕生日プレゼント渡したいって言ってるんだ」
「へえ。叶わない願いだってことはちゃんと教えてあげたの?」
「なまえの誕生日基大事な日。冥さん知ってる?」
条件を飲んでいる彼女が自身の誕生日を他人に告げるはずもない。どうせ本来のものとは違うと察するのが妥当だろう。この時期にそんな話が出るという事は、前後二週間辺りと言ったところか。
「当てたら賞金でも貰えるかい?」
「勿論。副賞にちょっとしたお願いも聞いてもらうけど」
五条君がここに来て彼女の名前を出した時点で、そんなことは見当がついている。当てはまる日付も一つしかない。ちょうど三日後を言えば、流石だと褒める気もない言葉で私に土産を手渡した。
「それで、何を?」
「さっき調べたら今週末は雨予報だ。僕も休みだしなまえと出かける。悠仁と会わせたい。」
「出かけるはなんとかなるとして、プレゼントはどうかな」
「大丈夫、そこは僕に考えがある」
上手くやるからさと自信に満ち溢れた彼の表情に、私は金があればそれで良いと答えを返した。
「流石冥さん!今度の手土産は奮発したからさ、頼むね!」
そう言って、当日の詳しい話を説明した五条君は揚々とした足取りで部屋を後にした。手土産を再度確認する。やはり彼女は金になる子だ。それにしても、最後の日に覚悟が揺れなければ良いけれど。腕が鈍らなければ良いけれど。ま、いずれにしろ私には関係のない話だ。きっちりやり遂げようじゃないか。指折り数えて君を待つ