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「やー、キグウダナ!」
横断歩道を渡り切った悠仁の第一声があまりにもぎこちなくて、ぷっと吹き出した悟。悠仁の隣にいる二人のうちの一人は頭を抱え、もう一人はもうバレてんでしょと冷静に言葉を飛ばしている。そんな二人を交互に見てから頭を下げると、つられるように二人もどうも、と頭を下げた。彼らは悠仁の同級生だそうで、私が悟と同じ家で生活していることは知っているらしい。その理由までを知らないせいか、野薔薇という女の子は私を上から下までじっくり吟味して、「これが虎杖の‥」と言うと、自分が持っていた傘を私に渡した代わりに悟の持つ傘に入り、彼の腕を強めに引いていく。
「生徒から慕われてる」
「いや、あれは違うと思いますよ」
「釘崎はなんつうの?突っ走っちゃうとこあるっていうか」
「三人、仲良しなんだね」
「それも違うと思いますよ」
「何で!カラオケとか行ってるじゃん!」
そう言えば、カラオケなんて行ったことなかったな。楽しそうだ。この、冷静そうな恵という男の子は、幼少の頃に悟と出会って以来ずっと彼のことを見てきているらしく、彼がこんな風に冷静になったのも悟が関係してるらしい。普段はどんな風に見えているのか、と聞いてみる。悠仁は先生はすごい強くて格好いいとキラキラした表情で教えてくれ、恵も世話になっていると照れ隠しのように少し視線を逸らしながら教えてくれた。性格は良い方じゃないと思うとも、言っていた。そんな彼が言うには、今日の姿は雰囲気が違うのだそうだ。長期間やってきている仕事だからじゃないかと言えば、少しの間を置いて、そうかもしれないですねと彼は言った。
「野薔薇は、悟が好きなのかな?」
悟の傘を揺らして食いかかっている彼女に視線を飛ばせば、二人は声を揃えてジェスチャーまで添えながら無い無いと即答する。戻ってきた彼女は私にごめんなさいと何かを謝って傘を受け取ると、悟を睨んだ後丁度良い提案があってですね、と口火を切る。それに合わせて悠仁はちょっと待っててねとすごい速度で道路を駆け抜けていった。
「すごい睨んでる」
「はは、誤解が生まれてるだけ」
その視線を割るようにお待たせという言葉に不釣り合いの時間で戻ってきた悠仁は、柄の入ったビニール傘を私に手渡してくれた。言われるままに傘を開いてみれば、縁に月の満ち欠けがあしらわれたバードケージが広がった。
「雨の日に、大人二人で傘一本は大変だろうと思って今買ってきた!‥って言う体で、これ、なまえにプレゼント」
「‥良いの?」
「おめでとう、なまえ」
本当は包んで渡せたらよかったけれどと頬を掻きながら、あのお日様みたいな笑顔で言葉を紡いでくれた悠仁。あの日咄嗟に作った私のもう一つの誕生日を、悠仁はちゃんと覚えていてくれた。私の、月が好きだと言う言葉まで覚えていてくれた。
「ありがとう。凄く、嬉しい」
悠仁は驚いたように一瞬目を見開いて、その後すぐに「おう」と飛び切りの笑顔で答えてくれた。波が立っていたはずの心の中は、先程までとは違う軽やかなものになっていた。やっぱり、悠仁は太陽みたいな人だ。ほんのわずかな雲の隙間から光を差してくれる。
「ビニールなら空がよく見えるだろって、五条先生も一緒に考えてくれたんだ」
その言葉に、名前を呼ばれたわけでもないのに心臓がドクンと跳ねる。早速差した傘を通して悟を見上げれば、頼まれたからと悠仁と同じように頬を掻く。おめでとうと微笑む彼を見て、傘の露先から滴る雫と一緒に何かが滑り落ちていく。その、絶えず滑り落ちていく感情に、何と名前をつけようか。例えば月が綺麗だと告げたとして