※07 水に流した願い 五条視点※

ひたひたと微かな足音が止んだ。学長に自分の部屋も使ってと声をかけたなまえは、いつもの場所に身体を転がしていた。マイペースというかなんというか、家のどこででも寝られるようで、こんな風に床で寝転がることに躊躇がない。小さな身体をさらに小さく丸めて眠る彼女の為に買ったブランケットが、こんなにも活用されるとは流石に思ってもいなかったけど。
ソファから降り、彼女の隣で横になって視線を合わせてみる。寝心地は、お世辞にも良いとは言えない。これでよく寝られるな。曲げている膝が僕の太ももに当たって、避けるようにするりと伸ばされて行く。筋肉の無い白くて細い脚は、もう遠くには行けないと訴えているようだ。

「僕と寝たかった?」

彼女の辞書に、冗談と言う言葉は載っていない。そんな彼女は、リビングが好きだからと真っ直ぐな瞳で言葉を返した。うん、まあそうだよね。肯定的な返答を期待していたことに気付かされ、自身への呆れた笑いが溢れた。女の隣に横になって、手も出さない夜が来ようとは。掛けっぱなしだったサングラスを外して、隣の無防備な彼女に触れることもなく静かに目を閉じる。

さわ、

閉じた目元に感じた違和感。睫毛を撫でられたのは初めてだ。指先が僅かに触れた右瞼に隙間を作って彼女の表情を覗き見る。月を見上げている時と同じ顔をしていた。

「眠かったんでしょ」

夜明けを待つような、儚い時に想いを馳せるような表情に目を閉じて声をかければ、戻ってきたことに対して礼を言われた。冥さんに揶揄われたようなものでも、彼女には関係ないらしい。それでもと礼の言葉を重ねるから、それ以上は何も言い返さない。

「おやすみ」

僕の言葉を受け取った彼女の寝息が聞こえるまでに、そんなに時間はかからなかった。慎重に目を開けば、月明かりに照らされた彼女の栗色の髪が水流のように床に広がっている。首元には相変わらず例のペンダントが張り付くようにぶら下がっていて、それを見る度に伸ばした手がピタリと止まる。時々、彼女の寝息が止まってしまったらと考えることがある。恐怖とは違う、何かが心臓の辺りを引っ掻くような感覚に襲われるのだ。そんな人の気も知らず、安心しきった顔で眠る彼女の頬を撫でれば、伸ばしていたはずの膝を折り小さく身体を丸めて身を寄せる。

「無防備すぎだって」

なまえの寝顔を見るのは初めてではないけれど、こんな風に吐息で髪が揺れる近さで見るのは初めてで。胸元に収まってしまいそうな身体をそっと包めば、その口元がゆるりと弧を描いた。

「また明日ね、なまえ」

起きる頃にはソファに戻っておくから、あと、少しだけ。月明かりが彼女を照らす間だけ、その穏やかな横顔を眺めていた。

隣で見た寝顔


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