悠仁の友達の伏黒恵には、初めて会った気がしなかった。それは、知り合いによく似た顔だったからだと思う。幼い頃から悟を知っているからか彼の少しの変化にも敏感で、そんな所もあの人と影が重なった。
幼少期のことはほとんど覚えていないのだけど、このペンダントをくれたあの人のことはよく覚えている。蒲公英の綿毛が飛んでいく様子を見るのが好きで、小学生に上がると毎日河原に寄り道をしていた。

お前、それわざと?

何のことやらさっぱりとはてなを浮かべた私を見て、マジかよと笑ったのが始まりだった。飛んでいく綿毛を目で追うだけの私を変わり者だと言い、暇じゃないと言いながら横に座る私をそこに置いてくれて、色んな話をしてくれた。一緒に空に舞う綿毛を視線で追いかけて、私の指す先に視線を向けてくれる人だった。和装がよく似合う人だった。

「俺には元々、お前みたいなもんがねえのよ」
「ミタイナモン?」
「あー‥足りねえもんがあるってことだ」
「ふうん」

お兄さんは大半の人が持っているらしい何かを一切持っていなくて、その代わりに貰ったものがあったそうだ。そして、人よりも敏感なのだと言っていた。

「そんなにどでかいもん持たされて、この先苦労するぞ」
「そうなの?」
「そのうち嫌でも分かる」

せいぜい頑張れやと、私の鼻先を摘んで笑顔を向けてくれた。家族以外に屈託ない笑顔を向けてくれる人はその人が初めてで、多分、私も他人に笑顔を向けたのはその時が初めてだったと思う。

「お前にやる。いつも持ち歩け」
「いいの?」
「別に放っといても良かったけどな」

真逆なはずのお前が、俺に似てるから

そう言って、あのペンダントをくれた。
今なら、お兄さんの持っていなかったものが何かも想像出来る。敏感だと言った時に少し顔が歪んだのも、色んなことを一度に吸収している生活に少し疲れてしまっていたのかもしれない。けれど当時はそんなことを思いつきもしなくて、似てると言われたことを大事に掌で包んでいただけだった。

「ありがとう」

二十年後、結婚してなかったら結婚してやろうかと照れ隠しのような誘いをしてくれた言葉を、私は断った。幼いながら、恋愛のそれではないとわかっていたし、きっとお兄さんは素敵な人と結婚するだろうと思った。何より、出会った初日に多分五十歳まで生きるかどうかだろうとご本人の口から聞かされていたからだ。ああそうだっけ、と言って私の頭に手を置いたお兄さんは、訂正するよとけらけら笑った。

いっそ三十歳くらいじゃね

意味もわかってなかったけれど、そっかあと妙に納得したことにお兄さんの方が驚いていた。

「やっぱりお前変わってるわ」
「それならお兄さんも、カワリモンだね」
「はは、違いねえ」

それ以降、お兄さんは河原には来なかった。ペンダントをくれた日、一緒に綿毛を吹き飛ばしてしまったからお兄さんも同じように飛んで行ってしまったのかなと思った。少し寂しいような気もしたけど、貰ったペンダントを身につけていると気分が少し楽になった。周りの目を気にするよりも、自分のやりたいことをやろうと思ったのは、この時からだったんじゃないかと思う。

「名前、聞いておけばよかったな」

出会った日、駄々漏れだった私の呪力が、ペンダントをつけると瞬く間に気配を消したことに酷く驚いたと悟は言っていた。名前も知らないお兄さんにずっと守ってもらっていたんだと、その時初めて知ったのだ。

もうすぐ、二十年が経つ。どこかで会えたら、あの時はありがとうと伝えたい。もしも私の方が先にあちらの世界に行くのなら、お兄さんが綿毛のように飛んできてくれるのを、今度は上で待っていられるね。どうか、あの人が幸せな人生を送っていますように。

ペンダントをくれた人


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