「なまえ、手出して」
「ん」

言われるがまま差し出した両掌の線を、悟の長く骨ばった指がそろりと撫ぜる。何も言わず、生活とともに変わるらしいこの無数の線をなぞる悟は、何を想っているのか。まだそれがわかるほど悟の感情の揺れに鋭くなれていないから、何かあったのかと聞いてみる。悟は柔らかく笑って、首を横に振る。

「手相、信じる?」

そう言う悟自身は信じているわけではないらしい。私は疑う理由もないから、軽く頷いた。

「これが頭脳線。こっちは感情線だって」
「へえ‥私、頭良い?」
「はは、どうかな」

悟は、指でなぞるその線がそう言う名前を持っていることだけ知っていると笑った。両掌で違うのは、今までとこれからを表しているらしい。

「悟のも見せて」
「僕の頭脳線と似てたら、きっとなまえも頭が良い」

両掌をぱっと開いて見せた悟の左の掌を取って、先ほど悟がなぞった線と似たところをなぞってみる。自分のものよりも遥かにくっきりと、長い線。きっと、私よりも悟の方が頭が良いんだろうと思った。悟も同じことを考えたのか、笑いを堪えるように肩だけ揺らして笑っている。何とも思っていなかったのに、悟が笑うから私もつられて笑ってしまった。

「これ、生命線」

私が唯一知っている線の名前。どこまで伸びていたら何歳まで生きられるのかは、知らない。自分の掌と比べてみると、悟の線の方が長く伸びている。

「良かった」

残された側の気持ちは知っているけれど、実際に残していった側の気持ちを教えてくれる人はいない。本当は、どっちが良いんだろうか。自分の生命線を悟の生命線に合わせるように掌を重ねれば、悟の第一関節がゆるりと曲がった。

「小さい手」
「そう?」

自分の線を私の掌に焼き付けるように徐々に強くなる力は、程度の良い辺りでぴたりと止まる。

「今まで、手を繋ぐことなんかなかったね」
「うん」
「なのに手を離せなくなるって言ったの、誰だっけ?」
「離さなくていいよって、悟も言った」

今後はどこか出かける度に繋ごうか、なんて、何かに抗うように冗談を飛ばして、何も無かったみたいにいつもの笑顔を作り出すから、私もそれに乗っかった。何もなければ手だってとっくに剥がれているのに、接着剤でくっついているみたいに離れる気配がないのはどうしてか。答えは簡単。明日、久しぶりにあの人達の元へ出向くことになっているからだ。

「明日、雨が降るといいけど」

そうすれば、悠仁に貰った傘を使えるよ。柔らかい声色で紡がれた悟の言葉は、優しさが一文字ずつに惜しみなく詰め込まれているようで。

「晴れたら、手を繋いで行けばいい」

前回の呼び出しで罵声とも取れるような言葉が飛んできたことを、悟は今でも気にしてくれているのだと思う。私はと言えば、隣で聞いていた悟の首筋に浮かび上がる血管の方が鮮明に記憶に焼き付いていて、言われた言葉たちは記憶の隅で膝を抱えて佇んでいるだけだ。

「いっそ、サボってみる?」
「行こうよ」
「‥真面目だねえ」
「悟と出かけるの、楽しみ」

本当に僕のこと好きなんだから、と言う悟の口角は緩やかに空を向いていて。繋がる手も、繋がっていなかった手も両方繋いで、体格に似合わず幼なさの残る笑顔で、悟は快く頷いてくれた。

手を繋ぐための理由


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