「なまえ」
「ん?」

手招きに誘われて携帯の画面を覗くと、そこには可愛い三人組が写っていた。ハンバーガーに齧り付く悠仁、大きなドリンクを持っている恵、そしてそのドリンクのストローを咥えている野薔薇。いつもは悟も画面の中にいるけれど、今日は悠仁が写真を送ってくれたらしい。もう何ヶ月も会っていない悠仁達だけれど、携帯で撮った写真を時々悟が見せてくれるから、久しぶりと言う感覚はあまり無かった。

「なまえも撮って送る?」

私が頷かないと知っていながら、いつもこうして聞いてくれる。写真を送る行為は上の人が言うところの「馴れ合い」に該当するだろうし、元々写真はあまり撮りたいと思ったことがない。そもそも何かを写真に収めておこうとも思ったことが無いから、制限がなかったとしても写真は送らなかっただろう。

「じゃあこれは僕の独り占め用に」

撮られること自体は然程気にならないけれど、自分の表情の乏しさには毎度何とも表現し難い気持ちになる。いつもの携帯と同じ見た目のもう一つの携帯を取り出して、カシャ、といかにもな音を響かせる。そして、他者から見えている私がその画面に貼り付けられた。悟の携帯の中の自分は鏡で見る自分ともどこか違っていて、別世界の他人のように思える。そちらの世界は広いのだろうか。それとも、その枠の中でしか生きられなかったりするのだろうか。

「おーい」
「‥おーい」
「おーい、じゃなくて。また何か考えてた?」
「ううん‥あ、悟も撮る?」

なまえも独り占めしたいの?
被写体が良いから撮るのが下手でも大丈夫。

彼の口にしそうな言葉を思い浮かべながら、いつもの悟を真似て聞いてみる。けれど、予想に反して悟は言葉もなく首を横に振った。想定外の出来事に、肩がほんの少しだけ揺れる。同時に、構えていた指先が画面に触れて、カシャ、なんていかにもな音がまた響いた。悟の意見を聞いたくせに、撮ってしまった。

「驚いた顔、久しぶりに見た」

首を振ったのは冗談だと笑いながら、私の手元を覗き込む。

「はは、ピント合ってないねえ」

ここへ来て、悪戯っぽい笑みと一緒に予想通りの被写体が良いからなあの声。ピントが背景に合ってしまって悟の姿はぼやけているけれど、その一瞬を切り取って映し出された姿はまるで、朧月のようだ。霞んでいても靄がかかっていたとしても、闇夜に浮かぶ月のようにそこにいるとわかる。そんなことに私はどうやら嬉しさを感じているらしい。静かに揺らぐ水面のような穏やかさと、少しの痛みと温かさと幸福感。不思議な感情が、心臓の奥の方で波を打つ。

「二人で撮る?」

柔らかく響く悟の声。冗談混じりの言葉に律儀に首を横に振れば、欲がないなあと言葉を飛ばしながら悟は笑った。写真を一緒に撮ってと頼まれることもあるらしい。へえと声が出た事に、興味なさすぎるとまた笑っている。

「あーあ、本当は悟と写真撮りたいなー」
「‥どうしたの」
「なまえの気持ちの代弁。合ってた?」

今日はなかなか悟の言葉に頷くことができないらしい。これまでと同じように首を振れば、悟の大きな掌が、私の頭の両側にあてがわれた。

「今日はもう横振り禁止」

分かったと頷けば、悟は満足そうに私の頭を自分の力でこくりと動かして、分かった分かったと遊び始めている。次第に私もその動きに合わせて自分で首を揺らして、悟の髪もふわりと揺れた。

「悟、」
「まだやめないよ」
「酔いそう」
「えっ」

やめないと言った割にはぴたりと手を止め、大丈夫かと顔を覗き込む。

「止まったね」
「‥具合は?」
「ん、平気」

言葉を聞いた悟の指が、両頬に触れる。無言のまま、痛いと思えるくらいにギュッと力を込めて、私の頬を抓った。

「僕の扱いが上手くなった」
「やったね」

優しい声色とは裏腹に、もう少し抓る力を強めながら、痛いと言う言葉が零れ落ちるのを楽しみに待つように意地悪な笑みを浮かべる悟。名前を呼ばれて悟の左の人差し指がさす先に顔を向ければ、何度目かのシャッター音が部屋に響く。切り取られたその世界の中には、私と悟の二人きり。
嫌いではない表情の自分と、楽しそうな悟が画面の中にいて、そんなことが何だか嬉しかった。

写真


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