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五十以上ある階数ボタンに目を光らせる悠仁は、エレベーターを降りてからも変わった様子は見受けられなかった。少し変わった呪力を持った女性だよと教えてやれば、テンションが上がるよりも先に彼女への訪問を気遣った。
「こんな夜中に会いに来て、迷惑じゃないのかな」
「悠仁は悪くない。彼女も起きてるし、気にしないで」
「なら良いけど。」
悠仁に答えているようで上層部の馬鹿共への文句だと気付いている学長は、もう少し成長しろと淡々と言葉を飛ばした。その言葉にはきっと先程の出迎えの時のことも含んでるんだろう。
「ねえ先生、その人ってどんな人なの?」
「そうだなあ‥悠仁を連れてきた学長はどう思います?」
「会えばわかる」
幸か不幸か、僕と学長の回答は同じだ。そして言葉の終わりと同時に施錠された扉を開ければ、今度はドアロックに阻まれることなくすんなりと扉が開いた。お邪魔しますと礼儀正しい声を響かせた悠仁に反応して、なまえがキッチンの方から顔を出す。
「あ、夜蛾さん」
「遅くなって悪かったな」
「ううん。忙しいのにありがとう」
手をひらりと振ってこちらに寄ってきたなまえの頭に、学長の掌が乗る。くしゃ、という小さな摩擦音と一緒に、なまえの擽ったそうな表情が零れた。
「‥さっきの気配、この子?」
「そう、虎杖悠仁。この間話した宿儺の器だよ。悠仁、彼女は名字なまえ。君に会わせたい人だ。」
宿儺という言葉にはもう慣れたのか、短く返事をしたなまえは悠仁に小さく頭を下げると、僕の服の裾を掴んで自分はどうしたらいいのか、と視線を送って来た。大丈夫だと告げるように背に手を当て、僕の手を探るように後ろに手を回した彼女の掌に眼鏡を渡してやれば、素直にその眼鏡をかけて待つ。
「悠仁は彼女を見てどう思う?」
「どうって‥眼鏡が似合うかって事?」
「はは、それも興味ある」
「似合ってると思うよ。俺は好き。」
「好きだってさ、良かったね」
「悟、ふざけてる時間はない。虎杖、宿儺と代われ」
「ん?うぃす」
宿儺は人間の女が前にいると知って嬉々として入れ替わり、目の前に立つ少女の首元をまず掴んだ。
「裏があるのか知らないが、哀れな奴だ。すぐに楽にしてやろう」
快楽に溺れていく宿儺に首元を掴まれながらも顔色一つ変えず僕の顔色を窺ったなまえは、身につけていたペンダントに宿る呪霊の背を撫で、呪霊の背に透ける宿儺の指を見せた。ギリギリと音を立てるように力を強くしていた宿儺だったが、違和感が確信に変わったのか、或いは足が床から離れても真っ直ぐに相手を見つめる彼女特有の瞳が宿儺さえも惑わせたのか。遂にはその手を緩めて彼女を落とすように手放した。その時僕は、あの日の判断が間違っていなかったことを確信した。やっぱり、彼女は生かしておいて正解だったと。
「他の十九本が集まったら、その時はお返しします」
澄んだ瞳の奥は、彼女の心の内まで透かして見せていた。その言葉が嘘でないことも彼女が指を所持していることも、そして宿儺では彼女の命を奪えないことが己の身を持って感じたことだろう。
「一つ聞く。この女の呪力はどれ程だ」
「聞いてどうする?」
「単なる興味だ。理由はない」
「完全体の宿儺より上、って言ったら?」
宿儺は狂喜した。響く笑い声が彼女の好きな音楽を掻き消すほど高らかに声を上げて、一頻り笑い終えた宿儺はなまえの首を撫で、そして囁くようにこう言った。
「小僧の最期を飾る余興には丁度良い見世物だ。こいつの最期の日を楽しみに待つとしよう」
大人しく悠仁の中に戻っていった宿儺は、消え入るその瞬間まで怪しい笑みを浮かべていた。
悠仁の登場により、より明確に彼女の人生のゴールテープは確実に張られたことになる。そして悠仁にとっても、彼女が最後の鍵になるわけだ。入れ替わっていた間の話を含めて、彼女の正体について話をしておいた方が良さそうだ。
「悠仁、改めて紹介しよう。彼女は名字なまえ。君が最後に取り込む予定の宿儺の指を持ってる人間だよ」これが最後なんだ