05713
来客とのやり取りを終える頃には、一時を過ぎていた。窓の外には他とは違う気配の烏が飛んでいたから、あの一部始終を冥さんや上の人達も見ていたんだろう。悠仁は似合っていると言ってくれたけど、眼鏡は疲れるからあまり好きじゃない。悟に借りた眼鏡をそっと外す。初めて会う人との会話をしたのもあって、落ち着いて腰を下ろした時には欠伸が止まらなくなっていた。釣られるように欠伸をこぼした悠仁を見て、話はまた明日にしようとその場でお開きになる。遅いなら泊まって行けば良いと言った私の言葉に何かメリットがあると思ったのか、悟は同意して自室を二人に貸していた。
「夜蛾さん、私の部屋も空いてる」
「悟に部屋を借りている。気にするな」
「リビング、好きだから」
悟が買ってくれたベッドはとても大きくて、夜蛾さんでも悠々寝れる。お好きにどうぞと部屋を空け、悟のいるリビングへとひたひた歩いていった。ソファの手前、玄関から見ればソファの右隣に開いたスペースが私の場所だ。床に頬を寄せるようにそのまま横になれば、それに気付いた悟が私の隣で横になった。
「部屋で寝なよ。どうせ学長は僕の部屋しか使わない」
「それならそれでいい」
「僕と寝たかった?」
「リビング、好きだから」
私の返答にそうかと力ない笑みを零しながら、悟は掛けっぱなしのサングラスを外して静かに目を閉じた。夜空に映える月のような色をした長い睫毛に自然と手が伸びる。睫毛と一緒に軽く触れた側の瞼がゆっくりと細く開いて、眠かったんでしょうと言い終わるとまた閉じる。
「戻ってきてくれて、ありがと」
「遊ばれただけだよ」
「それでも、ありがと」
はいはいと言葉を返す悟。私も音楽のオフタイマーをセットして目を閉じる。こうして隣り合わせで寝るのは初めてだ。隣にいるというだけで、すごく安心する。ホットミルク、飲みたかったな。夜蛾さん達がお風呂に行っている間、微かに温度が残る牛乳は口をつけることなく容赦なくシンクに流された。流水音をBGMに水と混ざる乳白色をただただ眺めている途中、マグカップから香る甘ったるい悟好みの匂いが鼻を掠めたことを思い出す。
おやすみと言葉を紡いだ彼に同じ言葉を返して、そのまま眠気に身体を委ねるように微睡んでいくのを感じていた。
翌朝、目が覚めた時には悟はソファで横になっていた。普段から寝転がっている私は慣れているけれど、床に寝転がるなんてしない彼には体の負担が大きかったのだろう。起こさないように静かに部屋の様子を見に行けば、私の部屋では悠仁が眠っていた。
「虎杖が折角の好意を無駄にするなと聞かなくてな。それならお前が行けと言ったら、すんなり入っていった。」
「そっか」
先に戻らなくてはならなくなった夜蛾さんが、出ていく間際に静かな声で教えてくれた。悠仁は優しい人だと思った。みんなが起きて朝ごはんを済ませた後、昨夜お預けとなった本題へと移っていく。
「悠仁にも知っておいて欲しいことだ。わからないことがあったら何でも聞いて」
それを皮切りに、悟は私の呪力が完全体の宿儺と良い勝負であること、呪力が特異的で、現状悟の持つ仮想の質量を生み出すという術式でしかこの身体を消すことは出来ないこと、私の持つ呪力の一切が感知されない事、ついでに自身も呪力制御などは出来ず呪いが見えない事、そんな私が宿儺の指を持っていることをかいつまんで説明した。水に流した願い