中庭へ歩を進めると、奥に一人、誰かいることに気づいた。
あれは…
「(土方さん…?)」
庭の木に寄りかかって、煙草に火を付ける彼の姿は…
月明かりに照らされて、とてもキレイだった。
元々、整った顔立ちの方だ。
今日みたいな日は、さらにそれが際立つのだろう。
…いけない。
土方さんのそばにいるとまた面倒なことになるかもしれない…。
誰かに見つかる前に中に戻ろう。
私は踵を返して戻ろうとした。
「……千里か?」
土方さんが、私に気づいてこちらを見ている。
私はなんだか無性に恥ずかしくて今すぐここを去りたかったけれど、そんなことしたらあからさますぎる…。
仕方ない、ここは平静を装うしか…。
「…土方さん、お疲れ様です。」
私は、木に寄りかかる土方さんへ小さく会釈をした。
「珍しいな、お前、毎年不参加だったじゃねえか」
「今年は千姫に言われて仕方なく…」
私が苦笑交じりに返事をすると、
そうか、と言ったあと少し考えるように空を見上げ、
突然、優しい声でたった一言、キレイだ。と言った。
目を丸めて驚く私に、今度は土方さんが苦笑する。
「お前、本当は気付いてんだろ?」
「な、なにをですか…?」
困惑した私に、土方さんは、眉を八の字にさせて私を見つめる。
そのときだった。
(あれー?おかしいなー)
(ほんとにここなのー?)
(だってさっきここにいたの見たって…)
心臓がドクンと大きく跳ねた、と同時に
土方さんが私の腕を掴んで抱き寄せた。
あまりに突然で驚く私に対して、
耳に顔を寄せ、そっと囁く。
「静かにしてろ…」
おそらく営業部の女性陣が土方さんを探しているのだろう。
彼女たちから隠れるようにして、木にもたれかかる彼に抱きしめられたまま、時間だけが過ぎる。
……ダメだ…
このままでは、心臓の音が聞こえてしまいそう…
「千里…」
不意に耳元で名前を呼ばれ、彼を見上げる。
その瞬間…
「好きだ…」
「えっ……んん……!」
(ここにはいないみたいだよ?)
(見間違いだったんじゃない?)
(あー残念ー!)
次第に遠ざかっていく声
頬を掠める、静かな風
背中に感じる、彼の温かい腕
そして、クラクラするくらいの、熱いキス
私の心が奪われるには、それだけで十分だった。
恋ってやつは
どうやら、突然やってくるらしい。
(お前、露出しすぎだ。)
(え…あ…すみません…)
(俺以外にこんな姿見せるんじゃねぇ)
(あの…それってどういう…)
(お前はもう俺のもんだろうが。)
(…え?!)
なんだか、いろいろな意味で大変な人に恋をしたようです。
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