雨が降る街を車で走る。
暗い中で降り続ける雨が道路を透明の液体で覆い、赤信号で止まる車の赤色の光が反射していた。
運転席の前にあるガラスにも赤色が反射して眩しかった。
隣で運転する彼女を見て、かっこいいなと思った。高校の時に赤色の車が欲しいと言っていたのを覚えてる。
この映える赤は彼女が来たと私は合図にしている。
赤色の車に赤色の唇。赤いヒール。秋が来たからと赤色のワンピースを買っていたのを覚えてる。赤が多い彼女は青色が好きだと言っていた。でも、青色よりも蒼い瑠璃色が好きだと言っていた。でも、彼女は青はあまり自分自身に合わないと言っていた。暗い寒色が似合う彼女に会う色は何かと訪ねたら、ブルーピンクらしい。調べて見たら霞みが効いているピンクだった。大人っぽい色だったからこの前その色の服を探してプレゼントした、ワンピース。赤を買ったばかりなのは知っていたけど買った。足首が綺麗に見えると言っていたからきちんとふくらはぎの少し上までの長さのを買った。びっくりするくらい似合ってて驚いた。
大人の彼女は一ミリのタバコを吸う。
わりと私はその匂いが好きだったりする。彼女の匂いだから。
私のことを心配して私がいる前だと吸わないけど、微かに香るタバコの匂いが好きだ。
前を見て、右手にハンドルを握らせて人差し指でリズムを取っている。
横顔のシルエットに見惚れてると
「なに?」
と少し顔をこちらに向けて言った。
「見惚れてました」
と言えば、なに言ってんだと言うようにふっと鼻で笑う。
窓に青色が反射すると長い足に履いてる赤いヒールでアクセルを踏んだ。
ハンドルを握る指の先には赤ではなくピンクと白でフレンチを作っていた。
わりと彼女はいろんな色を纏う。春は彼女が似合うと言っているピンクブルーの服を着るし、夏になればオレンジのスカートを履いていたし、黄色の爪をしている時もあったり、冬は白黒が多い。
「さてと」
キッと車を止めてこちらを向いた。
ジェルアイライナーが彼女の綺麗な目に沿って塗ってある。
「それで、君はどうしたの?」
「別に」
少し素っ気なく言った。
「全く。今度はどうしたの?」
ため息をついて少し言い方を変えて言った。
ため息からはタバコの香りがした。
「別に。なにもないんですよ」
「まぁた嘘ついた。なにもないと呼ばないでしょ」
「私はいつでも会いたいです」
「嬉しいわ。でも、夜中に車出せるかなんて君は聞かないでしょ」
「ワガママ、言いたくて」
「また嘘だ」
「嘘じゃないです」
「じゃあ、隠し事だ」
少しムッとすれば、彼女は笑った。
「なにも聞かないでくれませんか?」
「嫌だよ、私は気になる」
「・・本当に、なにもないんですよ。ただ、寂しくなっただけです」
「親御さんが心配するでしょ」
「しないことを知ってて言ってますよね」
「じゃあ、喧嘩したんだ」
やられた。彼女はにんまりと笑う。
「別に喧嘩じゃないです。ただ、向こうが一方的に決めるから」
「なにを?」
「なにをって、別に進路とか」
「なるほど。それは喧嘩したほうがよさそうだ」
「楽しそうですね」
「楽しいわよ。他人の修羅場なんて。変に辛かったねって言われたいのならスクールカウンセラーか、そう言った可哀想な子が好きな人にでも会いなさい」
意地クソ悪い。嫌な性格をお持ちな彼女はなんだってこうやって楽しむ。
いつもそうだ。こっちがやられてばかりだ。
「別に。進路のことはいいんです」
「なんでよ。大切なことよ?」
「・・言っておきますけど。進路って、大学とかの進路じゃないですから」
大人の彼女とセーラー服を着ている自分なんて釣り合わないというか。年が少し離れた姉妹のように見えるというか。
最初は憧れだった。でも、憧れだけじゃ済まなくなって行った。
「へぇ。なんの進路?」
「貴女と結婚したいという進路の話です」
私の言葉を聞いた彼女は驚いて固まった。してやったと笑えば、少し開いた口が徐々に三日月になっていく。
「それで?親御さんは?」
「・・・・まぁ。賛成はしないでしょうね」
「でしょうね。私が親なら反対するわ」
彼女はそういうと前を向いた。どこかに止めた車の窓に雨が跳ね返る。
「それで、君は私になにを望むの?」
ああ、やはり彼女のペースだ。ハンドルを両手で握り顔をにんまりとさせて両手の指の上にこみかみを置いた。見惚れる自分を認識して顔が熱くなる。
「別に、貴女が好きですということです」
「今日は、別に。が多いね」
「別に」
あ、と思った時には遅く彼女は楽しそうに笑っている。
「まぁ、いいわ。そう。私のことが好きなのね。ありがとう」
「どういたしまして・・・」
ニッコリと可愛らしい笑みを浮かべる彼女は上体を起こしギアを動かした。
「さてと、行きますか」
彼女はそう言うとアクセルを踏んだ。
「どこへ?」
「さあ?どこでしょうね」
子供に話す口調で言った。
ギアを引いて車を発進させた。外は冷たい風とジメッとした空気が流れているのに対し、車の中は一定の温度で保たれている。クーラーによって冷やされた空気は心地がいい。
相変わらず彼女の考えていることはわからない。どこに向かっているのかと聞いてもきっと答えてくれないから黙る。
座席の背もたれに頭を預けて窓の外を見た。雨は相変わらず降り続けている。カツンカツンと窓に当たる音とワイパーが動く音、アクセルの音が私の耳に響く。
水たまりを引いて水が跳ねた音がする。雨限定のこの音が好きだ。
元々目が大きい彼女はマスカラをしない。目がケバく見えて嫌だと言っていた。その代わりアイラインを目元に引いているから色気がある。
「なに。また見惚れてたの?」
彼女が前を向きながら言った。
「悪いですか?」
「いいや。可愛いと思ってね」
まるでウィンドー越しにあるぬいぐるみを欲しがる顔だ。と言った。その言葉を聞き自分は顔が赤くなった。
あれから随分と走らせると彼女は車を停めた。
「さてと」
そういうとギアを引き、シートベルトを取った。
「もう少しで雨が上がるといいんだけど」
「雨?」
「私はね。車に当たる窓の音は好きだけど、雨の日の空気は好きじゃないのよ」
「わかります」
「でしょう?だから待ってるの」
なにを。と聞きたがったが辞めた。どうせ答えてくれそうにないから。
「・・・タバコ。吸っていいですよ」
と言えば
「嫌よ。君がいるもの」
と返ってきた。なんだか、自分が子供だから吸わないと言われたようで
「別に、吸ってもいいですけど」
ムッとして言う。
「ダメよ。こんな深夜に君を乗せてるんだから。親御さんから預かってるのよ。私は」
「私は、そのタバコの匂いが好きです。貴女の匂いだから」
そう言えばハンドルに左手を置いてため息をついて私を見て
「なにそれ。私、そんなにタバコ臭いかしら」
と言うから
「いえ。そうじゃなくて」
「だいたいそれは、男性に向ける言葉よ」
気分を悪くさせてしまったと自分は焦りながら
「い、いえ。その、香水もつけていない貴女の香りだから。わ、私は好きなんです」
焦りながら言う私を見て。彼女はふっと笑う。しまった、やられた
「そう。じゃあ、今度会うときに吸っておくわね」
そしてまたうまいこと交わされた。
「まぁ。貴女も二十歳になれば吸えばいいんじゃない?」
「いいんですか?」
「当たり前でしょ。二十歳になれば好きなことできるわよ」
「そうじゃなくて。吸ってもいいんですか?逆に止めるとかするかと」
「しないわよ。自分も吸ってるのになんで止めるのよ。体には悪いわよ。肌も汚くなるし。勿論、歯は黄ばむし。私は一ミリを吸ってるからあまり匂いがわからないらしいけど。家に喫煙者がいない君の場合は微かにするかもね」
彼女はそう言うと、初めてこの車の音楽を流し始めた。
ドラマとか映画とかで流れてそうなジャズ。ジャズサックスが音を軽快に流す。
スキップするようなドラマ。可愛いくときにエレガントに弾かれるピアノ。トランペットにギターをたまにとパーカッションが盛り上がる。
「ジャズ好きなんですか?」
「まぁ。好きね。すごく聞くわけじゃないけど。この前、夜にドライブしたからきっとそのままなのよ」
「誘ってくれればよかったのに」
「いやよ。めんどくさい」
「わりと傷つきますよ」
「わかっててやってるのよ。でも、本当のことよ。それに、1人が良かったのよ」
「そういえば、なぜ結婚しないんですか?」
ふと不思議に思って聞いた。彼女は少し考えてから
「タバコが吸えないから」
と答えた。
「なんですか、それ」
と私が笑えば彼女は
「わりと重要よ。自分の好きなものを共有できない人はやめといたほうがいいわね。わからないけど。やらないけど気にしないって言う人でもいいけど、まぁ。これはそのモノによるわね。ゲームとか遊びとか本とかだったら一緒に共有したほうがいいし。まぁ、私のタバコの場合は気にしない人でもいいわね」
「私は、タバコ気にしません」
「あと、1人がわりと好きね」
「寝るとき一緒なら」
「あと、年上が好きね」
それじゃあ、何も言えない。意地クソ悪い。
彼女は窓の外を見ていた。車のヘッドライトも消えてここがどこかなんてわからない。
「最近は、学校どうなの?」
彼女が聞く。
「まぁ、そこそこには」
「最初に比べるとマシかしらね」
「まぁ。そうですね」
わりと親身になってくれる彼女には色々とお世話になった。
大人の彼女と会った日もこんな雨が降っていたときだった。傘を忘れて走って帰っていた私の少し前に停車し助席の窓を開け傘をくれた。その時はくわえタバコをしてて手を限界まで伸ばして傘を取れと言った彼女はカッコよかった。お礼がしたいと思っていたら電車で一緒になって。あいにく傘は家にあったが傘を返すどころか要らないからとくれた。それから連絡先を聞けばすんなりと教えてくれた。その時の爪には梅雨に映える紫陽花色の紫が塗ってあった。パンツスーツの彼女の仕事について詳しいことは知らないけど総務部で営業まがいなことをしてると言っていた。営業部ではないが営業的なことをしているらしい。
「眠たい?」
学校のことを話していると他の話を思い出したりとお話ししていると自然と会話が終わった。2人でぼうっとしていると彼女が聞いてきた。
「い、いえ」
「寝てなさい。まだ、時間あるから」
「いえ、大丈夫です」
「ダメよ。子供なんだから寝ないと私みたいにならないわよ」
憧れの彼女からそう言われてしまうと口を噤んでしまう。
じゃあ。と靴を脱いで座席を倒した。彼女は冷房を弱くし、ジャズからクラシックにした。軽快な音から重いバイオリンが聞こえてくる。
斜め下からみる彼女の顔を見る。女性の顔は男性と違い、耳の下の顎骨には皮膚やら脂肪、リンパなどが溜まりやすいらしい。それでも、彼女の顎のラインはシャープで綺麗だった。鼻が低いと言っていたが私には別にそれでも悪くないと思える。下から見るとまつげは長く。量も多い。
「私のことなんて見てなくていいから、寝てなさい」
スマホをいじりながら言う彼女が言った。
癖なのか彼女は腕を組む癖がある。右手でスマホをいじりながら左手を右手の肘の下に添えていた。その机がわりだった左手で私の頭を撫でる。指が細くて長い、手のひらは薄い。気持ちがよくて目を細めた。手をお腹らへんに持ってきて置いた。冷えないようにとのことだろう。そのまま指をポンポンと上下に動かした。
わりと淡々としてて冷たい雰囲気のある彼女はこうした紳士的な部分がある。
(そりゃ、惚れるでしょ)
そう思いながら彼女の手に任せて意識を飛ばした。
目を覚ましたのはわりと周りが明るくなってからだった。
「起きた?」
「ええ。長いこと寝てましたね」
すみません。と言えば彼女あくびをして
「いいのよ。私も寝てたから」
と言って車を発進させた。
明るくなってから気づいたが、街というかなんだか町外れに来ていた。
しばらく走っていると彼女が
「そこにある袋にパンが適当に入ってるから食べなさい」
と言った。寝ている間にコンビニへ行ったようだった。
まだ、日が昇り始めてすぐの時間。まだ辺りは暗く人はいない。車の中の音楽はいつの間にか爽やかかなオーケストラに変わっていた。
「どこへ向かってるんですか?」
「さあね」
人がいない街から少し林に入った。
深夜からずっと彼女といるのは久しぶりだ。中学の時はよく親と喧嘩してこうして車に乗せてもらっていた。時には彼女の家に泊まる時もあった。
「さてと」
そういうと彼女は車を降りた。
自分も車から降りると湿った土を踏んだ感触が靴から伝わって来た。
霧がひどく何も見えない。
「そのうち。朝日が昇るよ」
「そういえば、雨。やみましたね」
「さっきまで降っていたわよ」
「へぇ」
「まあ、少しは外の空気を吸わないとね」
と言って彼女が車の中に入って電話をし始めたので車から離れて前に進んで行った。
しばらくしたら日が昇り始めて、空が見えて来た。
「あ、」
空には綺麗な虹ができていた。
「綺麗でしょ」
彼女の声にびっくりして勢いよく振り返った。
「さっきまで雨が降っていて、霧もあったから虹ができると思ったのよ。青い空にはできてないけど、それでも、霧にできる虹って珍しくていいでしょ?」
と笑いながら言った。
(あ、タバコ吸ってる)
車から少し離れた自分を見て大丈夫だと思ったのか、車にもたれてタバコを吸っていた。
「私と結婚したいの?」
「え、あ。はい、したいです」
「付き合うとかじゃなくて?」
「好きです」
「ありがとう。でも、そうね。大学に行けばいい男なんてたくさんいるでしょ」
私の告白を軽く流し口から煙を吐いた。
「私は貴女がいいんです」
「嬉しいわね。でも、私は年上が好きよ」
「じゃあ、付き合ってください」
「聞いてるかしら?」
ふっと笑う。
「なぜ、君が私のことが好きなのか教えてあげるわ」
「・・・なぜでしょう」
「憧れで、精神的に参ってる時に私がいたからよ」
他にないわ。という彼女の言い分はわかる。でも、
「恋なんて、そんなものでしょう」
少し声に怒りが混ざった。それでも、彼女は車にもたれたまま腕を組み、左手の人差し指と中指でタバコを挟みながら笑う。
「そうね。そんなものよ。でも、君は私が周りからどう思われているなんて知らないでしょう?」
「周りがなんて言おうと、私は」
「ダメよ」
彼女は私の言葉を遮って言う。
「恋に盲目になってはダメよ。それに、私だって君の周りの人が君をどう思っているのか知らないもの」
吸って吐く息は私の好きな匂いだった。
「で、私のこと好き?」
「好きです」
「付き合いたい?」
「はい」
「私にセフレが3人いても?」
「・・・」
「不倫相手でも?」
「・・」
「何も言えないでしょう」
「でも、貴女は、」
「そんなことしないって?」
先に彼女に言われてしまって、黙る
「ごらんなさい。虹は7色あると思っていたでしょう?でもね、実は7色じゃないのよ」
「らしい、ですね」
「きっと、その見えてない知らない色は君が知らない私ね」
じゃあ。今から知っていきたいとは言えなかった。
「付き合って何がしたいの?」
「別に」
「同居じゃダメかしらね」
え。と彼女をみた。口にタバコを差し込んで長く細い指で抜く。赤が薄くなった唇から紫煙が出る。
「もちろん、君が大人になったからね」
「え、え。あ、いいんですか?」
「なに、君が言ったのよ?別に私は君のこと好きじゃないけど、一緒に住むくらい問題ないでしょ」
断ることもしなければ受け入れることもしない。なんて、優しくて酷い人なんだろう。
「じゃあ、」
「もちろん。その間に私に好きな人ができなかったらね」
なんて、意地悪い。
「いじわるですね」
と言えばふっと笑い
「知ってるでしょう?私の性格の悪さなんて。そこに惹かれた君の負けよ」
なんだかたまらなくなって彼女に抱きついた。
「危ないわね。タバコがあるのよ」
「いいです。別に」
「まぁ。君が大人にならないと家で吸えないからね」
と言ってタバコを携帯灰皿に入れて微笑んだ。
ああ、その顔が好きだ。貴女が好きだ
「好きです」
「ありがとう」
「好きです」
「わかったってば。ほら、見なさいよ」
彼女の目線をたどる。
「虹、綺麗ですね」
「まぁね。後悔するわよ」
ぼそりと言った言葉に私は返事をしなかった。その言葉は、私に言ったようには聞こえなかったからだ。
「ほら、帰るわよ。明日は学校でしょ」
「サボりたいです」
「ああ。本当に。子供ってワガママね」
車に乗ってシートベルトを閉めて言うと彼女は鍵を差し込みながらため息をついた。
「面倒ですか?」
「ええ。面倒ね」
いろんな色を纏う彼女と車で山を下る。
赤が多い彼女が好きな色は青。似合うのはピンクブルー。吐き出す色は薄紫。瞳の色は茶色。なんでも知ってるわけじゃないけど、知ってることはある。
「でも、貴女は私のこと好きでしょう?」
ニヤリと笑って言えば、驚いた顔をして彼女は言う
「嫌いじゃないわ」
目線を少しこちらに寄せて
「好きでもないけど」
と言った。
何か言おうとして、口を開けようとしたら
「でも、悪くないわね。君が私のこと好いてくれてるのは」
と言った。
やはり、彼女には敵わないなと笑った。
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