「お誕生日、おめでとう」
なんて言葉は子供からしたらとても楽しい日で。大人になると嫌な日になってしまう。ああ、歳をとったなと思う。
しかし。だからと言って、友達が言ってくれたりするその言葉に悪態を吐くわけにもいかない。
「ありがとう」
なんて、嬉しいから言えるけど言った後の胸に渦巻く気持ちが嫌になる。
別に歳をとったという気持ちで渦巻くのではない。ただ、単に私は誕生日が嫌いなのだ。
「おめでとう」
そう友人に言われて、ありがとう。となんて軽く言う。
ああ、やめて。祝わないで。気持ち悪い
「ありがとう!」
とやはり言われたら嬉しい。でも、だからと言って心の底から喜べるかといえば嘘になる。
私は昔から、人の誕生日を覚えるのが苦手だった。両親の誕生日もなかなか覚えられなかった。
付き合いが長い人のみ覚えていて、過去付き合った恋人の誕生日は一回も覚えてない。
友人たちの誕生日は危うやだ。
子供は自分が誰よりもいいプレゼントをあげたと思いたいからか、ぬいぐるみや可愛らしいシャーペンとくれたりしていたが。きっとそのせいだと思いたい。
自分はくれる代わりにあげることをあまりしなかった。なぜなら、覚えてないから。
しかも、くれた子が誰と誰だったかも覚えてない。
だから、誕生日は好きじゃない。
「まあ、あんたはそういうところあるからね」
長い付き合いの彼女が言う。彼女の誕生日は覚えた。11月25日だ。三年目にして覚えた。
誕生日は、一年に一度なので三回で覚えようとすると卒業したりして覚えられない。
「でも。覚えられないのと嫌いなのは別じゃない?」
「だと思うんだけど。なんかね、嫌だなって思うんだよ」
「なんで?」
「わからないから困ってるんだよ」
友人の質問にため息をつく。
「でも、可哀想ね。自分の生まれ日を喜べないなんて」
「・・・まぁ、ね」
コーヒーを飲む。
ケーキを食べたりするのは好きだったが、今は太る要因だし、甘いのは好きだけど胃もたれしてしまう。
あー、歳をとったな。
「でも、なんとなくわかるわ。誕生日に嫌な気持ちにはならないけど、素直に喜べない感じ」
「いや、別に素直に喜べないんじゃなくて。喜んだ後が、ね」
きっと分かられないんだろうけど。いや、わからなくてもいいんだけど。
自分だって、変だなって思うよ。
「まあ、私の年をとるから嫌だっていうのとは違うんだろうけどさ。一番厄介なのは、喜んだ後に来るっていうところだよね」
友人の言葉に頷く。
中学生の頃なんかは、祝って欲しいけど祝って欲しくないだなんていう訳の分からない気持ちの時もあったけど、高校になるとこちらが教えない限り祝ってこない。思い出したように聞かれてもお互い忘れてしまったりする。しかも、高校生になると簡単なものでいいから当日なんとなく持って行ったお菓子でもあげればプレゼントになる。
「私の一番の希望は、その日あんたと家族以外に何も言われずに終わることだったな」
「そんなに?」
苦笑いする友人に、こっちも苦笑いする。
「誕生日に嫌なことなんてなかったけど。とにかく、嫌になるんだよ」
コーヒーカップを飲み干し、そろそろ行くかとカフェを出た。
買い物してをして、一人暮らししている友人宅にお泊りするのが私たちの誕生日の過ごし方。
でも、お互い忙しいからだいたいはお泊りのみだ。
お風呂を借りてリビングで寛いでいるとドライヤーで乾かした髪にリビングの光を反射させながら私の隣に座った。
「で?」
「は?」
「誕生日。嫌だって言ってたじゃん」
「ああ。うん、まあ」
「家族はわかるんだけどさ、なんで私には祝って欲しいの?」
昼間、カフェで話していたことのことだろう。
「なんでだろう。親友だから?」
「聞くなよ。質問を質問で返すんじゃあない!」
友人の言葉に、笑うと友人も笑う。
「まぁ、誕生日嫌いなあんたから祝って欲しい組に入れたのは光栄だわ」
と言った。
なんだそれと笑うと友人も笑う。
しばらくニュースを見ながらぼーっとする。友人の横顔を見る。視線に気づいた友人はなに?と聞いてくる。
「私さ、きっと産まれたくなかったんじゃないかなって思うんだよね。今は別になんとも思わないけど、きっとそう思ってたのかもしれない」
友人は静かに聞いていた。ニュースを読み上げるお姉さんが真剣な顔をして政治について話す。
「でも、おめでとうって言われたら私は嬉しくなってありがとうっていう。そこまではきっと私自身なんじゃないかって思うの。気持ち悪く感じるのは私自身を気持ち悪がる私じゃないかって」
そばにあるクッションをソファーの上で胡座をかく自分の真ん中に引き寄せ、胡座をかいた足の上に置いた。
「今でもよくわからないけど、年をとるっていうのは自分がまだ生きているということじゃん?となるとまだ生きてるんだみたいな気分になるんだよね」
ニュースは終わって他の番組になっていた。
私はまっすぐテレビを見ながら友人に言う。
「でも、祝ってもらうって言うは自分が存在しててもいい気がするんだよね。だから、私は普通の友人にあまり祝って欲しくなったのかもしれない。おめでとうと言うたび廊下だったり教室だったりとその言葉を聞く人たちが祝ってくれるでしょ?でも、私は祝って欲しくないから、こうして静かに私の誕生した日を終わってくれるのがとても心地よかったのかもしれない」
私がそう言うと、友人は
「そっか」
と言ってテレビに顔を向けた。
しばらくして、そろそろ寝るかと2人で歯磨きしたり寝る準備をした。
寝る準備をしてから、布団で寝ようと布団の上に寝転がる。スマホを充電して布団をかぶるとベットに入った友人が、ねぇ。と声をかけてきた。
「ん?」
「さっきの話だけど」
顔だけ友人に向ける。友人もごそごそと動き体をこちらに向けた。
「うん」
「普通の友人には祝って欲しくないって言ったじゃん?でも、私に祝ってもらうと嬉しいって。あれ、すごく嬉しかった。なんか、あんたの特別になったみたいで」
そう言う友人の顔は暗さに慣れた目で少しわかるくらいだった。
「まあ、親友だからね」
私がそういえば、嬉しそうに笑った。目が慣れてきて、友人がとても嬉しそうな顔をしてるのを見た。
「誕生日っていうのは好きじゃないよ。祝わなくていいって思うし。でも、これから先もこうして祝ってくれるなら悪くないかもね」
「いくらでも祝うよ」
慣れてきた目で友人の顔を見る。とても嬉しそうな顔をしてる
「親友だからね」
私はその言葉を聞いて、少し笑った。
「あんたは、誕生日が来るたんびにまだ生きてるんだっていう気持ちになるって言ったけど。私は親友が生まれてきた日だと思ってるし、一緒にいたりプレゼントあげたりして喜んでる姿を見ると、こっちまで嬉しくなる」
「わかる気がする」
「だからね。誕生日っていうのは主役の人以外も嬉しくなる日なんじゃないかなって思うんだよね」
友人の言葉に、ストンと何かが落ち着いた気がした
「なるほどね」
私がそういうと友人が笑った。
「だからね。おめでとうだと足りないと思ったの」
いきなりの発言に
「ん?」
と聞き返した。
「生まれてきてくれてありがとうは、親が言う言葉でしょ?おめでとうは、きっと生まれてきたことへの素晴らしさをお互いにたたってるんじゃないかって」
「うん」
「うん。だからね」
目がだいぶ慣れてきて、部屋の壁。布団の形、友人の手から、表情までわかる。
目を細めて、友人が笑う
「生まれてきてくれて、嬉しい」
「まだ、生きててくれて嬉しい。私と会えたから。だから、生まれてきてくれて嬉しい」
友人が笑う。
なんだそれと笑いたいけど、笑えなかった。
嬉しいなんて、誕生日でいうのはおかしい。でも、心が温かくなった気がして、私も嬉しくなった。ああ、これがさっき言っていたことか。
「ありがとう」
もう、私が生まれ日が終わる。
ストップすることなく、続けている私の記念日。始まったことを喜ぶ日はきっと自分以外も喜ぶ日だろう。
「誕生日は、好きじゃないけどさ」
友人を見ていう、瞳がこちらを向いている。
「悪くないね。自分のことで他人が喜んでくれるのは」
友人が笑った。
カチリと針が進み、私の誕生日は終わった。
そして、また一年の針が進む。
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