彼女はそう言ってわたしの唇に赤い唇を合わせた。
青白い足が本を蹴る。はらりとめくれたページ。
その通りだなと思った自分は異常であるのだと思う。でも、彼女はそれを受け入れた。だからこそ、困る。
甘い吐息が漏れる。口を開けることはない。
禁断を進ませないように、純潔を一応守るように。
人というのは。まず。その行為をする前に興奮をするものだ。
そのひとによって、興奮する場所は違って。可愛らしいものだったり危険だったり。
向きを変えるたびに口が開きそうになる。いや、若干開く。それでも、閉じる。そこより先は大人だと
離れた唇は、紅い。
いちごのように紅いそれは、美味しそうに見える。
あゝいけない。
唇の唾液を拭う舌がチロチロと見える。真っ赤なソレは、禁断だ。
いけない。2人でただいましないと。マザーグースが怒る。
火照ってる頬。白い肌にいちごのムース。
白い肌には、甘くない跡。
いけない。身体が火照ってる。アツイ。
遠くで名前を呼んでいる。耳元に紅い果実を添える。

「 」

だから、いけないと言ったのに。
スイッチが入るのは人それぞれだ。遊びなんかじゃない。本気になれば、本当ならば。
彼女の柔らかい肩に歯を立てる。あぐあぐと噛んで行く。プツリと皮膚が破れる音がして鉄分が流れてきた。
わたしの頭を抑えていた彼女の腕がきつくなる。
口を離して舐めてやれば、彼女は苦しそうな声を出す。
二酸化炭素を出さないで。吸わないといけなくなる。
細っこい腕を持ち上げれば、無数の歯型のタトゥーが見える。赤黒い塊がついた汚い腕。しかし、白い腕には麻薬のように移る。
少し手首を曲げれば、腱が見える。光が私にあたる。狼になってしまう。きっと狼になれば歯なんて鋭くなってしまうんだろう。そうなれば、それの近くにある小骨に歯を立てて仕舞えば、ガジリと音がして皮膚とともに白い頑丈なのに中がスカスカな骨さえ取れてしまうんだろう。
プクプクと浮かぶ血は、白い肌を滑る。
指先には、和菓子のような甘い桃色が見える。きつと、味はケーキに似てる。細っこい指も舌で撫でて仕舞えば歯を立てる。私は人間だから噛み切れないけど、皮膚は破れる。
せっかくだからもういいや。と彼女を押し倒して仕舞えば、彼女の頭はさっきまで私と向かい合って座っていたところにある大きなふわふわな枕に埋もれた。
細っこい喉を噛めば、気持ちが良くなる。それでも、悪いことをしている気がする。
なんだこれは、なんだこれは。と胸騒ぎがする。恐怖心を消したくて彼女を噛む。聖母の象徴。胸板は柔らかい。きっと、昔母にこうして抱きしめられていたからだろう。とても、懐かしくなる。
この悪いことを母に怒られると思いまた、恐怖心が溢れてくる。
彼女の声は消えない。ずっと自分の下で声を押し殺してる。二の腕にカブリと噛み付くと歯型のタトゥーと紅いインクがついた。
もっともっとと。子供のような無限の我儘を感じる。それと同時に自分に対する怒り。焦り。不安だ。何もかも不安だ。死んでしまったらどうしよう。彼女が死んでしまったらどうしよう。その時聞こえる彼女の何かを我慢する声。
生きてる生きてる。喜びが大きくなって気分が良くなる。
生きてる。生きてる。生きてる!
嬉しくなって彼女の顔を見る。ああ、目を赤くして。綺麗な水を青い眼から流し鼻をすする彼女。ああ、生きてた。嬉しい嬉しい。
なんとも言い難い嬉しさがこみ上げてくる。もっともっと声を。声を聞かせてくれ。
不安なんだ。イライラする。不安なことにイライラする。
幸せを感じて彼女が生きてることに安堵をしてムカついた。
なんだ、お前。まだ生きてやがって。自分に言い聞かせてるのか。彼女にあたる。拳があたる。
ふと、自分は何をしているのだろうかと振り返る。そこで、彼女が死んでしまったと思い。焦る。冷や汗が止まらない。死んでないでしょう、死なないでしょう?ねぇ。返事を、返事をして。
ハっとしたとき、彼女の嗚咽が聞こえる。
ああ、よかった生きてた。

「趣味が合うのよ」

何事もなかったように綺麗な言葉で、途切れることなく発した彼女。
なんだって?趣味が合う?僥倖!素敵だ!好きよ!好きよ!
彼女の紅い甘い匂いにクラクラする。歯を噛みしめる。よだれが垂れる。
綺麗な彼女。彼女がいないと生きていけない。生きていけないよ。こわいよ。こわいのよ。助けて。一緒にいよう。ねぇ。そうしましょう?
顔の横に左手を手の平をこちらに向け、噛まれまくった右手は白いワンピースの上に無造作に置いてある。噛まれたところからのインクで白いワンピースは、ところどころ赤くなってる。肩紐が少しずれて、谷間が見える。喉には噛まれた後。柔らかい肩にも、首と肩の間にも。白い光を浴びた白い細い足。
眼を潤わせてこちらを見ている。
自分の口から吐息が出る。イヤらしい音が鳴る。まるで、犬のような。
食べてしまいたい。食べてしまいたい。性欲と食欲は似ているとはよく言ったものだ。
納得してしまった自分は、彼女しか頼れない。
性行為とは、前戯が1番興奮するのだと思う。達したら終わってしまうならその間が1番重要だと私は思うのだ。
胸が上下に揺れている。ゴクリと唾を飲んだ。食べたい。食べたい。食べたい。でも、そうなると彼女は消えてしまう。そこで気がつく。
ダメだ。それは、ダメだ。彼女がいないと死んでしまう。いやだ。いやだ。いやだ!
こわいよ。ひとりは、いやだよ。こわいこわい。恐怖心が溢れてくる。涙が止まらない。こわいこわい。紫陽花色のタトゥーがついてる腕で涙を拭く。彼女がそっと、私の頬に手を添えて上半身を起こす。腕を目から離して顔を少しあげる。彼女が私にキスをする。優しく。優しく。安心をくれるように。
優しさで息ができなくなる。ふんわりとした気分になる。優しく何度もリップ音を可愛く響かせながら何度も何度もしてくる。不意に彼女の両腕が私の腕を掴む。そして、いきなり強く掴まれる。驚きと痛さに顔が歪む。

「言ったでしょ?」

彼女の顔が歪む。吐息が激しくなる。
痛みから快楽への吐息がする。媚薬のような吐息がする。

「趣味が合うんだって」

美しく笑う彼女は、とても怖かった。
口から彼女が欲しいと息が乱れる。犬が尻尾を振るようにハアハアと息が乱れる。

「私が欲しいでしょ?」

「私も、あなたが欲しいのよ」

三日月に笑う口には、八重歯が光る。いっそ殺して欲しいと体のアツさから願う。安心が欲しい。安息が欲しい。何もかも欲しい。

「気持ちが悪いわ」

彼女が楽しそうな口調で言う。

「気持ち悪い」

冷たい口調で言う。生々しく蛇のような口調で楽しそうに冷たくスキップしながら言う。
ゾッとするのに、気分が高まる。助けてと叫びたくなる。

「蜉蝣の腹の中を見たことはあって?とても、気持ち悪いのよ。アリの巣のようにちぃさいモノがギッシリとしてて。吐き気がするの。あんな小さな体に小さな粒がたぁくさんあって」

「だからね。気持ち悪いから。捨てちゃった」

「捨てちゃったの」

私も、捨てられるのかな?いやだな。こわいな。こわいな。捨てられるなら、殺しちゃうかな。でも、彼女がいないと生きてけないから。どうしようかな。ああ、また怖くなってきた。殴りたくても噛み付きたくても彼女の腕が私を拘束している。動けない、

「魚もそうよね。お腹の中にたくさんの卵。見てて気持ちが悪くなってくる」

楽しそうな彼女をみて、なぜか安心する。

「いいよ。殴っても」

「でもね。忘れないで」

「あなた、死ぬのよ」

死刑宣告は、恐怖そのもので。
食べたい欲も暴きたい欲も全てなくなった。

「怖くなったの?」

首を縦に振る。手の握力が強くなる。

「かわいいね」

甘い匂いがする言葉は、頭を回る。鼻血が出そうだ。
ガッと手を掴んだまま私を押し倒す。

「でも、面白くないわ」

そこで、私の意識はなくなった。


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