ふと目が覚めらと散らかした本はなく、ずり落ちた肩紐も元に戻って、私は普通にベットに寝ていた。
月の青白い光はなく。そのかわり窓のカーテン越しに光り輝く朝日が差し込んでいた。
ぼうっと窓を見ていると、ドアが開く音がする。まるで、性行為の後の空気が流れる。
「よく眠れて?」
紅いインクがついた白いワンピースから、白いシャツに深緑のスカートに変身していた彼女は紅茶の匂いを運んできた。
コトリとベットの横にあるサイドテーブルに置くとベットに腰掛けた。
「よく寝てたわね。起こさなかったら、お昼になっていたわよ」
心地いい声と、優しい指先。頭を撫でられるのは昔から好きだった。
「今日の朝ごはんは何がいいかしら」
「なんでもいいわ」
昨日のことなんて夢だというように私たちはまた、日常を始めた。
窓の外で鳥が鳴く。可愛らしい音を発しながら。
「風に当たりたい」
そういえば、彼女はクスリと笑って了解の合図をした。窓が開けられふわりと風が入ってくる。カーテンは大きく膨れてはしぼみと同じ動作を繰り返していた。
鳥の鳴き声が大きくなる。ピチピチと朝日にはちょうどいい音がする。白いベットに光が少しあたりまた、眠気を誘った。どうして、夏の朝はこんなにも清々しいのだろう。青い空にどこまでも続く白い大きな雲。あれを目指して旅をすれば何があるのだろう。心地いい風は留まることを知らない。入ってきてはどこかに消えてしまう。
「気分はどう?」
スカートをカーテンのように膨らます彼女。昨日のように髪の毛をちりばめることなく、後ろで編み込んでいる。
「ふつう」
「そう」
なら良かったとでもいうように言った。彼女が再度ベットに腰掛ける。ベットが揺れた。
「さて。今日は何をしましょうか」
「なにをしましょうね。せっかくの晴れですもの。なにかしたいわね」
「今日は外で本を読みましょうか?」
ここ最近雨が降り続いていたから、久しぶりの晴れ続きに心が躍る。
ふと、昨日のことを思い出した。昨日の出来事は覚えてはいるが寝るところまで覚えていない。疲れて寝たのだろうか。そういえば、彼女に深い可愛らしいフレンチキスされた気がする。彼女の言葉がふと蘇る。生々しく聞こえたその言葉は吐き気を呼び出しドキドキする響き。
「どうかしたの?」
ポットからカップへ紅茶を入れている彼女が言った。布団を握っている腕からは、紫陽花色のタトゥー。
「べつに」
「寝ぼけているのかしら。顔でも洗ってきたら?」
紅茶は冷めてしまうから早めに洗おう。そう思ってベットを出た。そのまま、洗面所へむかう。鏡に映る自分は至って普通だが、一箇所だけ違うところがあった。
「おはよう」
再度彼女がいう。いつのまにか椅子を持ってきていてサイドテーブルの近くでベットに向かいながら紅茶を飲んでいた。それは、あなたが用意してくれた私の紅茶。
「どうかしたの?」
カップを右手で軽やかに持ち上げて何事もないように言った。
「私たち趣味が合う」
彼女の真似をすれば、彼女はこちらを見た。楽しそうにカラカラと笑う。
「綺麗よ」
そう一言言ってまた、ベットを向いて紅茶を飲んだ。
自分も、まあいいやと思い踵を返して着替えようとクローゼットを開いた。何を着ようか。今日も暑いからワンピースがいいな。楽だし。何色がいいかな。黄色、緑色、赤色、青色、黒に白。悩んだ末に、最近着てなかった黄緑色のワンピースを手に取った。
着替えて髪の毛をとこうとすれば
「結んであげる」
とサイドテーブルから声がした。
ブラシとピン入れとゴム。何色か悩んで水色のリボンを選んだ。
床に座れば彼女がカップを置き後ろから手を伸ばしてくる。その手に全て預ければスッと引かれてブラッシングが始まる。
鳥の音より蝉の音が大きくなる。風が蒸し暑くなった。
髪の毛を結んでもらうから文句は言えない。彼女は、一度夢中になると終わらない限り次に進まない。
アブラゼミ、ミンミンゼミ、ツクツクボウシだったかよくわからないが蝉が一斉に鳴き始めた。風はとうとうなくなってしまった。背後からの音だけを感じて自分のベット越しの壁を見ていた。暇になって外の様子が見たいとそわそわしていたのか彼女に動くなと髪の毛を引っ張ってきた。少し痛かったがおとなしく頭を固定してまた、ぼうっとしていた。
できた。と合図代わりに頭をポンと叩いた。なんとなく右手で結んでもらった髪の毛を触った。下の方にリボンが結んであった。
彼女が黙って窓を閉めに行った。蝉の鳴き声はくぐもって聞こえてきて、その代わりにクーラーの機械音が始まった。窓を閉めてカーテンを閉める彼女の後ろ髪には、赤いリボンが2つ。私はお出かけの準備を始めた。向こうで読む本を3冊、敷物。ドアを開けて廊下の掃除をしていたメイドにサンドウィッチを作って欲しいと依頼をした。ドアを閉めれば彼女がこちらを先ほどの椅子に座りながら見ていた。カップは持たず、足を組んで腕を組みながらなにかを考えているようにみえる。自分は首を傾げたが、まあいいやと準備の続きをした。クローゼットのカバン置き場でバケットを探していると
「水浴びをしましょうか。暑いもの」
「じゃあ、水着がいるわね」
「いらないわよ」
水浴びをするのにいらないとはどういうことか。探すのやめて彼女を見れば先ほどと同じ格好だった。足だけ浴びるということか?よくわからないがいらないなら用意しなくていい。でも、タオルはいるだろうと思い、タオルを用意してベットの上に置いた。ついでにバケットも見つけてベットの上に置いた。
「あと、着替えも」
なんだかよくわからないが、もしもの用なのだろうか。私はクローゼットに向かった。服を選ぶのが面倒になって、適当に白いワンピースをハンガーから剥がした。ベットの上には、本、タオル、ワンピース。バケット、適当に持ってきたクッションが並ぶ。ベット越しの彼女を見る。同じ格好でこちらを見ている。サンドウィッチができるまで暇だ。私は、ベットに倒れた。クーラーが効いた部屋でふわふわの布団にダイブすれば心地の良い矛盾に眠気を誘われた。髪の毛が崩れないように枕に鼻から下を埋めた。そのまま寝てしまおうかと思ったとき。ドアがノックされた。どうぞと言いながら体を起こす。失礼しますとメイドが入ってくる。私はベットから飛び起きてサンドウィッチの入った箱を受け取る。美味しそうだ。ありがとうを言おうと思い箱から顔を上げたとき、メイドがこれもとサンドウィッチより小さな箱をくれた。中を開ければバターの香りがした。ありがとうと伝えれば失礼しましたとメイドは微笑みながらドアを閉めた。私はそれらと一緒にバケットにいれた。彼女は椅子から立ち上がっていて麦わら帽子を2つ用意していた。サンダルを履いてバケットを持って彼女の元に行く。
「本は持っていかないの?」
「持ってるわよ」
と私の麦わら帽子を持ってない右側に本を2冊持っていた。私は無言でバケットを開けたが無言で首を振られたので閉めた。優しく頭に麦わら帽子が被せられる。彼女に手を引かれて部屋を出た。廊下は部屋よりは暑いがクーラーが効いていてそこそこに涼しい。大きな屋敷だからここらの近くに川は流れているだろう。と思ってそこそこヒールがあるやつにしたが、草原を歩くならヒールは向かなかったなと思った。メイド長が私たちに気づくと頭を下げて
「どこへ行かれるのですか?」
と聞いてきた。彼女は
「川に。涼みに行くのよ」
と伝えればメイド長は笑顔で、いってらっしゃいませと再度頭を下げた。行ってきますと言った彼女はそのままドアを開けて外に出ようとした。振り返った私とメイド長が頭をあげるのがちょうど同じで、行ってきますと手をふれば笑顔で振り返してくれた。
屋敷から出て瞬間夏が体当たりしてきて外に出たことを後悔した。彼女とつないでる手は汗ばんできて自分の汗か彼女の汗かわからなくなった。草原ではなく日陰が多い道を通った。隙間からさす光は眩しくて帽子をかぶってて良かったと思った。ヒールの靴はやはりキツくてはやく目的地につきたいと何度も思った。日差しは肌を焼くようにギリギリと痛んだ。立ち止まった彼女につられて立ち止まると目的についていたことに気づいた。
「日陰を探しましょう」
そういうとまた歩き始める彼女。着いたのにまた歩くことに私はワガママを言いたくなった。冷たい水が自分を誘う。ああ、はやく入ってしまいたい。
「ここでいいかしらね」
と言った彼女の指示に無言で頷き素早く敷物を引いてバケットを開いた。腐らないようにと氷が袋に入っていたが、氷袋は水となっていた。
サンドウィッチの前にサンダルを脱ぎ捨てて足を川に突っ込んだ。冷たい。とても気持ちがいい。暑い体をスゥと冷やすように水は足先を凍らせた。日陰になっている身体を捻って適当に置いた本を取った。彼女は無言で隣に腰掛けてきて水に足を入れた。昨日とは違う足。同じなのに、どうしてこうも違くみえるのだろう。サンドウィッチを食べる。シャキシャキのレタスとみずみずしいトマトにキュウリ。ハムを歯で噛み切った。口に溢れるフラッシュ感とパンの重み。マヨネーズが濃さをたしてとても美味しい。彼女は私を見て紅茶を入れてくれた。水筒からは氷の音がした。紅茶は爽やかな花の香りがした。フルーティーな香りは強く。花と攻撃せずお互い主張していた。クッキーを一口。サクリと2つに割れた。片割れは私の口の中に消えて行く。バターの香りとシンプルな味。とてもおいしい。メイドが作ったのだろうか。わからないが帰ったら感想を伝えよう。
長いこと本をにふけっていた。一冊読み終わりため息をついた。足を川につけたまま、倒れていた私の上半身に本を閉じて置いた。青い空が見える。白い雲はゆっくりと流れていく。
眠くなってきて目を閉じる。瞬きをするように目を覚ませば目の前に彼女の顔があって驚いた。空と同じ澄んだ晴れた瞳をしてる。
「心地がいいわ」
足をチャプチャプと上げ下げすれば彼女は笑った。蝉の声がする。上半身を起こせば彼女がそれに合わせて身体を持ち上げた。日が照ってるところにある石の上に蝉の死体がある。ジリジリと焼き石のような熱い鉄板の上にいたら死ぬだろうに。でも、蝉だから死んでるのか。落ちた先があそことはご愁傷様だな。とのんびりと考えた。ジリジリと命が焼け死ぬ音がした。
「水は、何もかも流してからるからいいね」
そう言った彼女は、細長い指を私の首にヒタリとつけた。
蝉の声がする。夏の葉っぱはエメラルドに光っている。水に反射する光に、白い太陽、白い雲、青い空、澄んだ晴れた瞳に、首についた紫陽花色のタトゥー。川に足を入れたまま立ち上がった彼女は私の手を引いた。一緒に立ち上がる。手を握られたままステップを踏んでみる。水しぶきが起きる。彼女はしゃがみこんでしまった。私もつられて前屈みになる。スカートが濡れると思い手を引こうとしたら、逆に引っ張られた。ワンピースの裾が濡れる。お互いにしゃがみあった。手首に彼女の腕がしがみついている。蝉が鳴いている。他の虫も元気なはずなのに全く見えない。石の上の蝉が死んでいく音がする。死体をみていたら急に視界に青い空と彼女が映った。ワンピースはびしょ濡れだ。背中まで冷たい。結んでくれた髪の毛が重くなる。押し倒された私。押し倒した彼女。
「趣味があう」
生々しい言葉とともに汗が出る。冷たいはずなのに。首にできた紫陽花色のタトゥー。そこに手を重ねる。慎重にものを扱うように。そっと。あまりにも慎重だから彼女からの愛が優しいものだと思ってしまう。薄紅の唇が降ってきて息を止めた。そっと降ってそっと離れる。まるで、雪のように。紅茶の付属品で持ってきていたレモンの味がする。酸っぱくてほろ苦い。まるで、夏だと思った。ぐっと力を入れられれば息は本当にやめてしまった。美しい水死体のように私は動かなかった。そういうルールだ。
「かわいいわね」
そう言って彼女は首から手を離した。そうして、雪のような接吻をした。
「でも、おもしろくないわ」
そう笑った彼女。
蜉蝣は身を持った瞬間死ぬんだそうだ。もう一度とぐっと力を入れた彼女。本気のような力に焦りを覚える。ダメだよ。2人でただいましないと。蝉の死体は風で消えただろうか。自殺を知らない者たちはどこへいくのだろう。みんな生きるために生まれてきたのになぜ、みんな死んでいくのだろう。どうして、死のうとしてしまうのだろう。蜉蝣は本当は死にたくないんじゃないか?卵なんていらないんじゃないか?生まれた子どもは母親を望んでいるのではないか?
「あなた、死ぬのよ」
ぐっと力を入れられる。生理的に彼女の腕にしがみつく。私の腕には、紫陽花色のタトゥー。
忘れないよ。でも、忘れてしまうのが人間だ。許して欲しい。青い澄んだ晴れた瞳に移る全く同じの顔がうつる。忘れない。共喰いをしたのは私だ。夕陽が嫌いな私。光に手を当てれば血の流れが見える。恐ろしい。
冷たい背中に滴るのは、冷や汗。水死体になりきった私はどこへいくのだろう。あの入道雲の先はなにがあるのだろうか。いまなら、ごめんなさいができる気がする。
「かわいいわね」
彼女が笑う。
「覚えておいてね」
顔を近づけてそう呟く。
「あなた、死ぬのよ」
恐ろしい言葉を
「忘れないで」
生々しく
「趣味があう」
嫌いな夕陽を見つけた。
キツキツで詰め合わせた腹の中。
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