カリカリとシャーペンが、紙と擦れ机に傷をつける音がする。
「ねぇ。休んでる暇があるのなら、」
「わかってるって」
ごめんごめん。と謝罪する。
万里と明日の宿題を解いている。いや、正直にいえば、私が万里の宿題を写させてもらってて、万里は私に付き合ってくれてる。万里は、宿題を終わらせてしまったから今日の復習をしている。
私の部屋には、時計の音と万里のシャーペンの音のみが反響していた。
スラスラと。でも、たまに止まったりしながらシャーペンを滑られせていた。チラリと顔を上げれば、万里の手が見える。手首はスッキリとして腕時計をつける場所に小さく浮きでる骨は存在感が濃かった。
その細っこい手首を握れば、簡単にポキリと音を立てそうだと思う。
私の親指と人差し指を一周するだけで万里はもう、私から逃げることもできなくなる。もし、私が男性のように手が大きければ、もう片方の腕が出てきても、そのまま捕まっている腕と一緒にまとめられると思うくらい細い腕をしている。そのままベットにでも押し倒して仕舞えば、少し強張った顔をするんだろうなと思った。
その顔は私を煽っているだけだって思いながら、白くて細い手首を持ち上げて、手の甲にひとつキスをする。針みたいな指先。薄桃色の爪。指の腹。指の関節。手の平。手首。ひとつひとつにキスをしていき、手の甲をぺろりと舐める。そのまま小指側に行き、薄っぺらい手の平を甘噛みする。その隣に出っぱってる小骨をあぐあぐと噛む。私の歯が狼のように犬歯だけだったら、きっと手の平を噛んだ瞬間に赤い鮮烈な血をタラリと流すんだろう。小骨を噛めばギザギザな切り口は徐々に赤く染まっていき、噴水のように血が出るのだろう。白い手に赤が垂れていく。手の小さな繊維状の皺に血がはまっていき、程よい筋肉がつく腕に垂れていく。まだ白い指先には薄桃色の爪が光る。
和菓子のような指先は、きっと、ケーキのような甘い洋菓子の味がするんだろう。チメチメと舐めれば飴のように甘い。
親指。人差し指。中指。薬指。小指。順に舐めていく。
人差し指と中指を口に含み、舌で舐めていく。少し小さな煽情的な声を聞いて、少し気分が良くなる。
口から出したり入れたりを繰り返して、あぐあぐと甘噛みする。口から指を出せば、私の唾液まみれになった指先。透明な飴か何かをタラリと流すようだ。赤く染まった手の平に垂れれば苺タルトにかかるゼラチンのように見えた。自分の唾液と一緒に手の平を舐めれば、鉄の味が広がる。甘すぎて疲れた口の中には丁度いい鉄加減だった。
指先を曲げれば手の甲に飛び出る小骨の関節。皮膚をめくるようにガリガリと噛めば白と赤が繰り返して繰り返しでてくる。
ふと、指先を見る。運命の相手を待つその指を舐めて、口に含んでいく。薄桃色の爪先。あまり曲がらない関節。大きく曲がる関節。を口に入れて歯を立てれば、ガギリとかいって白い丸い骨を見せて、プクプクとスライムのように血が浮き出てくる。
親指。人差し指。中指。ひとつ食べてしまったから飛ばして、小指。一本一本丁寧に味わってから次の指を喰べていく。
コロコロと指を口の中で転がす。飴のような甘さと強い鉄の味。気が狂いそうな赤を見て甘い吐息が出た。
万里の血はまるで甘い味のする媚薬だった。そして、麻薬のようだった。
気分は良くなるし、指を食べただけでセックスをしたような気分になれた。いや、もっとシたくて堪らない。もっともっと。と子供のように無恥の貪欲さが止まらない。
美味しいとか美味しくないとかそんなんじゃない。ただただ、万里の指を喰べたいと思う。
細く白い手首に浮きでる一つの島のような骨を喰べて、指を舐めまくって、歯を立てて。それから
「ちょっと」
柔らかい。けど何処か怒っている声でふと意識が戻った。
「って」
「ボウっとしない」
あの喰べたいと思っていた指先で私の額を弾いた。中指が私に向かって伸びている。
「あー、ごめん」
ボソリと言うが、正直ちゃんと言えていたかも覚えていない。
まったく。と言ってパソコンのキーボードに戻ってしまった万里の白く細い指。血行がいいと知らせるように少し緋い指先の腹。薄桃色の爪。手の甲に見える青筋。頭がクラクラしてくる。
カリカリとシャーペンが机と摩擦を起こす音がする。
楽しそうに踊るように動くその指先。チラチラと存在を主張してくる。目に焼きつく手首。浮かぶ小骨。
私の親指と人差し指が一周するのと口の中に異物が入ってくるのとシャーペンの音が止まるのは、同時のことだった。
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