なぜかよく、もっと自分を大切にしろと言われてきた。
自分の体は至って健康体であり、また、ガリッガリの痩せでもなければ。標準型である。風邪はひきやすい体質だったが、今ではそんなことはない。
「熱の時とか?」
「別に、寝てたよ」
寝れば治るというお母さんからの風邪の治し方は今でも健在だ。
「でも、あんた。風邪のくせにわりと遊んでたじゃん」
「だって、寝てるの暇なんだもん」
「そういうところじゃないの?」
しょうがない。暇なのだ。だから、健康には気を使っている。
暇はよくない。頭が痛くなるのだ。
「まあ。わからなくもないけど」
「えぇ」
「見てて、不安になる?ていうか、心配になる」
お前は親か。と目を細めれば
「きっと、そういうこと言ってたんじゃないの?」
「守ってあげたくなるような?」
「いや、全く。ただ、構いたくなるわね」
それは、何系なのだろうか。せっかく、儚い系女子にでもなれたと思ったのに。
「今日、バイトだっけ?」
「いや、今日はない」
「そっか」
「あんたは?」
「あるね」
じゃあ、帰ろうか。と友人が言って荷物を持った。
私たちとゲームを楽しんでいるクラスメイトの男子数人に、さよならを言って学校を出る。
「最近、暗くなるのが早いなぁ」
「それな」
「気をつけて帰りなよ」
「ありがと」
そういえば、その気をつけてという言葉でよく怒られた。
「というと?」
バイト先の友達が聞いてくる。
お客さんは相変わらず、マチマチだ。ケーキを平日の夕方に買いに来る人なんてそうそういない。
「気をつけてねってやつ」
「うん、それでなんで怒られたの?」
「わからないんだよね。例えばさ、暗いひと通りが全くない坂道があるとするでしょ?そこを通らないと家に帰れないとする。で、お母さんにバイトが終わったラインして、迎えにきてもらうこともできる。どうする?」
「迎えにきてもらう」
「なんで?」
「えぇ。疲れてるし、坂道やだし、暗いし」
危ないし。とその子が言う。
「そう、それ。危ない。もしさ、君が歩いて帰るとか言うんだったら危ないから迎えにきてもらえるならきてもらったほうがいいって言うだろうけどさ。なんか、自分に言われるとわからないんだよね」
といえば、よくわからない顔をされた。
「夜道、女の子、危ない。それはわかる。でもさ、自分にそれを当てはめられるとわからないんだ。なんで?って。歩けるから歩いたんだよとか思っちゃうの」
待てないだけではないはずなんだけど。そう言えばその子はやっぱりわからない顔をした。
「でもさ、やっぱり夜道で誰もいない道を歩くのは怖くない?襲われたらとか、何かあったらって」
「なんかね。その危ないことの存在は知ってるんだけど、考えられないんだよね」
その「危ないこと」は知ってる。しかし、それが現地味のない、ただの子供騙しのような感覚に思えてしまうのだ。
自分の身を大切にしろというのはよく、そのことで怒られるのだが。自分ではどうしても理解ができないのだ。
自分のことは大切だと思えないのだ。なぜか。
風邪をひいてても楽しいことを優先してしまう子供地味たことをしてしまうのも。歩けるから歩いて帰ってしまうのも。
「そりゃ。自分が襲われるかもなんて、毎回思ってないけどさ。なんか。ザクリとするというか、後ろを振り返っちゃう感じ?がするじゃない?」
その子がそう言ってきてくれるが、いまいち理解できない。
「あー、なんだろう。赤信号で例えると?」
私の感覚を理解しようとしているのか、謎すぎるから知りたいのか。
「うんん。赤信号・・。車の通行量が多い道路があるとするでしょ?でも、今なんでか車が全くいなかったり渡れるくらい少ないとするじゃない。自分の信号は赤なんだけど、渡ってしまう感じ?」
「引かれるとわかってるんだけど、できないってやつ?」
「ちょっと違うけど、そんな感じ?」
そういえば、話がなんとなく終わった。
歩いて帰って、お母さんとかに危ないでしょと怒られたことがよくある。
私はその理由がよくわからくて、理解がいつもできない。
昔、鼻血を大量に出したことがある。それ以来、お母さんは鼻のかきすぎに注意しろと言った。それは、わかる。大変だし、貧血になる。でも、なにがダメなのかわからなかった。
「きっと。あれね」
ケーキが並ぶガラスケースを拭きながら彼女が言う。
「自分の体が、というよりも自分が倒れても自分が心配しないってことでしょ。だいたい、不安するって、相手のことだもん。自分を赤の他人においてみんな、怪我をしたらとか襲われたらとか言えるけど、あなたはそれができないんでしょ」
なんだか、かわいそうね。まるで自分が死んでもいいと思ってる人みたいだわ。とイタズラに言われて、ふと思う。
私は死にたいのか?と。別に特別生きていたいと思ってないが、だからといってすごく死にたいわけではない。嫌なことがあると死にたいと思うし、美味しいものを食べたら幸せだと思う。
その子はため息まじりに、私の永遠の謎の感覚源である言葉を使う。
「自分を大切にしたら?」
しているから、できないってことはないのだろうか。それとも、する気がないからか。どちらにせよ。
「心配はかけないようにするよ」
と言えば、今度は違ったため息をつかれてお母さんと同じことを言う。
「そういうこと言ってるんじゃないわ」
心配かけないようにするには、まずなにをしたらいいのか。わかっている気がするのに、体が理解をしていない。
「あなた。やっぱり、かわいそうね」
彼女のため息がガラスケースを曇らせた。
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