熱風と鼻血

夏というのはなんとも暑い日が続く。
帽子をかぶってスタスタと歩く。住宅街のきれいに整備されたアスファルトが熱を反射して足元から攻撃をしてくる。
髪の毛を結ぶ。ポニーテールが揺れる。息が上がる。喉が乾く。ゴクリと飲むと喉が潤ってスッキリとする。
風が全く冷たくなくて嫌になる。みどりの田んぼが揺れて風の形を見せてくれていた。
カキーンと響くどこかの公園の音。なにかを探している気がしてきた。嫌なことばかり思い出して頭を振るう。汗が顎に溜まって大きな粒になって落ちた。ぽたりとおちる。
昔から水に沈むのが好きだった。泳ぐよりも潜っていたかった。なにも聞こえずまるで自分しかいない世界にいるような気がして。心地が良かった。そのまま死んでしまえばと何度も思った。
履き慣らした靴の底が擦れてすり減っていた。アイスが食べたいとコンビニを探すが、お金がないことを思い出して水で我慢した。
水を飲むのと比例して汗の量が増える。ぽたりとおちる。
蝉がなく、忙しなく鳴く。どこかの偉い人よりも数日で命を落とす蝉の方が偉く思える。
死にたいなんていいながら生きている君も、私もどっかの誰かも。きっと蝉のように短い人生だったらきっとそんな事を思わなくても済んだかもしれない。
日差しがまるで自分を殺すように刺す。眩しくてなんだか、昔のことを思い出した。
目まぐるしく変わった。変わっていた世界は今じゃ。普通だ。なにもかも驚かなくなり、何もかも普通になった。水がなくなる。のどが渇いた。
ふらりふらりと歩く。歩く。行き先はまだ遠くか?どこに向かっているか。本当はどこに行くべきなのか。暑く、暑い。まるで終わりがないように思える。車が通る。ブワッとむさ苦しいガゾリンの匂い。熱い熱風を巻き込んだ。ふと、住宅に育つ木を見る。緑の葉っぱが揺れる。
熱風に誘われて思い出す。あの日、ふと、蝉を見ようとして見上げた木のしたに生えた生い茂った草の中。なんともいえない腐った匂い。何事かと思い近づいた。
初めて見た、人の抜け殻。手から溺れおちる蝉の抜け殻。
蝉がぽたりとおちる音がした。いつ死んだのか。わからないが。私にとってそれは、まるで、死んでるではなく、ただ、次のステップに行った抜け殻のように思えた。それでも、真っ赤のランドセルを背負ったわたしには衝撃的で。鮮明に覚えている。
それ以来、わたしは草むらが苦手だ。蝉の死にゆく喘ぎ声を聴きながら、動けなかった。あの日。わたしは、初めて、人の死を見た。
汗が流れる。ぽたりと、あの、蝉のような。抜け殻のような。間抜けな音も立てず。自分の感覚な音がする。めまいがする。太陽が白いと知ったのは、いつだろう。真っ赤なのに白く見えるのは何故だろう。青い空が消えることはない。白い大きな雲も消えない。わたしも消えない。あの日見た、抜け殻も消えない。なにも、消えない。二度と。もう、二度と。
ぽたりと垂れる音がした。鼻水を拭うと赤かった。ぽたりと垂れる。唇が、口紅よりも赤くなる。まるで、噛まれたように指に拭った赤がつく。
殴られなくても血は出るのだと、どこか冷静な頭が言った。
真っ赤なランドセルが見える。小さな手がわたしの頬に触れる。暑くて頭がもっとクラクラした。
ああ、夏がきた。


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