その真っ黒に真っ青な、ブードゥーブルーの瞳はなんだか、スポットライトを浴びた静かな深海に似ていた。
秋が遅れてやってきて、冬が間近になって来た。
冬の寒さは肺を縮こまらせ、ツンとした冷淡な雰囲気が私は昔から好きだった。
田舎とも都内とも言えない。それを人々は地方都市といった。
うまい言葉だと思った。それじゃあ、誰も文句言えないし言わない。
「それで。どうして君は」
そこまでいってやめた。また、繰り返しだから。
目の前に座る、なんとも目が死んだ綺麗な黒髪を持つ彼女は相変わらず黙って少し巻いている前髪の裾を指でさらりと払った。
彼女は同じ学校の優等生で、俗に言う一軍にいるべき高嶺で、高貴な人のはずなんだが。
彼女はそうならなかった。
「薬は飲んだ?」
「いいえ」
「じゃあ、飲んでください」
そういうと黙った。自分はため息をついて
「子供じゃないんですから、飲んでください」
困ります。といえば彼女はまた黙った。
私は彼女と幼馴染でも、後輩じゃない。
「私の世話なんかしなくてもいいのに」
「できればしたくないですね。ご自分で管理できるようになって欲しいくらいだ」
なにが嬉しくてこんな面倒な鬱の相手をしなくてはならないのだろうか。そう思いまた、ため息をついた。
彼女とは、なんでもない関係のはずだったのだ。
ただ、彼女の家がお金持ちすぎて。私の家が、たまたま、偶然的に、その家に仕えていただけで、私がそこに産まれただけなのである。
子は親を選べない。親でさえも選べないのだ。
「今日は?」
「今日は、華です」
「そう」
「休みたいなんて、バカみたいなこと言わないでくださいよ」
私がそういえば顔を少し暗くして嫌な雰囲気を出した。
クラスの人たちはなぜ、こんな面倒なワガママの塊の女の世話をしたがるのだろうか。なぜ、私のことを羨ましいと言うのだろうか。
「これ、薬です」
いつもの薬をラッピングされたまま渡し、水筒を渡す。
彼女は頑として飲もうとしないのだ。
ああ、またか。とため息をつく。
「ねぇ」
「嫌です」
「ねぇ」
「嫌です」
「ねえってば」
「嫌です」
「命令しても?」
「意味がありません」
ご存知でしょう?と言いながら彼女を見れば、さっきまでの暗い顔は何処へといった明るい顔をしていた。
この鬱の気まぐれにはほとぼと嫌気がさしていた。何年になる。こいつが鬱なんてものになってから。鬱だの、発達障害だの、自閉だの、なんだの病名がつきやすくなった今の時代。治しやすいし、扱いやすいかもしれないが、病気にしてしまったから差別が悪化してる気がしなくもない。
そして、私はそれに当てはまる。と騒ぐ奴も出てきてる。
「お願い」
「嫌です」
「ねぇ、」
「困ります」
「柊舞」
昔から、自分の名前が好きではなかった。
男の子につける名前をわざわざ私につける理由なんて1つしかない。
「柊舞」
ね?と明るい瞳を向けてくる。
ああ、やはり苦手だとしかめっ面をする。
初めて会いその時から私はずっと縛られている。
その真っ青な瞳は、彼女を表す表現にするには罰当たりな気がするくらい綺麗なブードゥーブルーの瞳。
私はため息をついて、彼女の華奢な手から薬を奪い、自身の口に含んだ。そして、水筒のお茶を含み。割と強めにグッと彼女の頸から後頭部を手で支え、反対の手で顎を持ち上げ強引に口を合わせた。
彼女は待ってましたと小さな口を薄っすらと開けた。その隙間に薬を流し込んだ。
「っ。」
ああ、またか。このお嬢はほんとうにタチの悪い。
今度は私は強引に口を引き離した。
「あら」
息を少し切らしながら楽しそうに話す。
私はブレザーの裾で口を拭った。
「時間です」
彼女は満足したのか立ち上がり、楽しそうに先程まで座っていた花壇の淵を固めているレンガの上を歩く。
舌を入れられるのはもう慣れたが、だからといって許すわけではない。最初は鬱のせいにしたが、3回目は流石にと思い主治医に性依存を疑ったが鬱で片付けられた。それ以降は何も言ってない。
全く鬱というのは、面倒で嘘っぱちだ。
「ねぇ」
頼むからそのまま気分が下がらないでくれ。そう心の中で願う。
「なんでしょう」
「このまま死ぬにはなにをしたらいいのかしら」
「薬の免疫時間はあと、2分です」
「失礼しちゃうわ」
くすくすと笑う彼女に本日何回目かのため息をついた。
「でも、きっとダメね」
「柊舞が守っちゃうから」
私のいうこと聞かないもの。と笑う
当たり前だ。人殺しにしたいのか。
彼女の会話は全てどうでもいいことで構成されている。聞き流すくらいが丁度いい。真っ向から聞いていたりなんかしたら鬱が移る。
真っ黒のプリーツをひらりとはためかせながらレンガの上を歩く。私はいつ倒れてきてもいいように地面を歩く。やや下から見る彼女はどう見ても美しい。
「月華」
その名に相応しい顔立ち。性格は
「なぁに?」
「迎え来てる」
急げと急かす。彼女はつまらなそうにレンガから降りて私の少し前を歩く。
「蝴蝶様」
なんとも忘れにくそうな名字をしている。
蝶のようにフラフラとするその鬱さは、ぴったりだと思うのだ。
彼女を車に乗せ一緒に乗る。華は神経を使うから彼女が落ち込みやすい。疲れてしまうのだ。帰ってからもきっと彼女は宿題等を気にする。
だから、私は先にやっておく。教えられるように。
「いってらっしゃい」
無言で去る彼女。ああ、嫌がっている。
「はい。おかえり」
ああ。すごく面倒になりそうだ。
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