「あら」
書類を片付け廊下を歩いていると彼女に会った。
「久しぶりね」
「ええ、まあ」
「今から昼食?」
「はい」
「じゃあ、一緒に食べましょう?」
と提案すれば、コクリとうなづいた。財布を取ってくると言って、そこまで待っていてと伝えれば、またコクリとうなづいた。
「お待たせ」
行きましょう。と言えば、またコクリとうなづいた。自分の元部下は有名人だ。
この組織で唯一の女性スモーカーだ。そして、1人しか選べれなかった本部長補佐だ。本来なら本部長補佐は2、3人なのだが、本部長は自分の縄張りに人を入れたがらない。それなのに、彼女を認めた。彼女はとても有名になった。
「仕事の方はどうなの?」
「まあまあですね。本日の予定を伝えて、書類整理。判子が押された書類を各部署へ持っていく。の繰り返しですね」
「まあ、やることは似たようなものね」
食堂に着くとトレーを取り、料理が盛られた様々なお皿を好きなだけ取っていく。その間も彼女は、元いた部署の者や他の部署、元上司など様々な人と挨拶を交わしていた。本部長補佐になっても、こうして人が気軽に挨拶や話しかけられるのは彼女の不思議なところだ。誰とでも話せる彼女は今の仕事でもっと色んな人と知り合ったのだろう。
「友だちが沢山いるのね」
「そうでもないですよ?」
首を傾げながらそう言った。きっと彼女のいいところはそういうところだろう。他人への仲介がない。見えそうで見えない一線は気が楽で心地が良かった。
少し会話をして帰っている途中なんとなく振り返ると、彼女はフラリと自分の隣から消えていた。まったくとため息をついて彼女の元へと足を引き返した。懐かしい感じがするこの出来事に頬が少し緩んだ。
「もう、体に悪いわよ」
いつもの場所に行くとタバコを吸っている彼女がいた。用がないとき以外に入ったことがない煙たいルームに足を踏まれた。彼女はいつもの定位置に腰を少しかけて腕組みをしてタバコを加えていた。まるで彼女のようなゆらゆらとした紫煙を吐くタバコをスッと彼女の小さな口から抜き取った。同じ部署にいるときにもよくこうして彼女の口からタバコを抜き取っていたなと思い出した。
「まだ、吸えるのに」
抜き取られたタバコを吸い殻入れに押し込めば、彼女はあまり頓着がなさそうな口調でそう言った。
「まったく。本部長もタバコを吸うからって部屋で吸ってはダメよ」
軽く注意をすれば
「吸ってないですよ」と腰を上げながら言った。
「あら、そうなの?」
「ここへは仕事できてますから。まあ、窓を開けて本部長が誘ったら吸うんですけど」
「ダメじゃないの」
私がそう言えば
「だって」
と口を尖らせた
「まったく。肌にも悪いわよ」
私はそう言いながら彼女の頬を軽く両手で触れた。化粧が塗ってあるからかさらさらとした、弾力のある頬を両サイドに引っ張った。
「ふっ。変な顔」
なんだか笑えてきて軽く笑ってしまった。
頬から手を離して、その左手を下げていき彼女の手を握った。女性にしては骨張ったい華奢な手を引いてルームから出る。
「ああ、タバコの匂いがついちゃったわ」
と右手の袖を嗅げばタバコの匂いが微かにした。
「入らなければいいのに」
ボソリといった彼女の言葉に
「ダメよ。あなたのタバコを注意できないじゃない」
といえば、拗ねた顔をした。
自分よりも若い彼女は手のかかる猫のような妹だった。その拗ねた顔にふっと笑い、右手をそのまま彼女の頭へ持っていき撫でた。彼女は頭を撫でられると目をトロンとして気持ちよさそうにする癖がある。その間抜けな可愛い顔を見るたびにストレスも忙しい午後の予定もどうでも良くなるのだ。
「じゃあね」
彼女と別れて総司令室へ向かった。
次の日、自分の机の上に衣類の消臭スプレーが置いてあった。
送り主は書いてなかったが、袋にも入れずに机の上にそのまま置いていくのは彼女しかいない。昨日のことを覚えていたのだろう。まったく可愛らしいと頬が緩んだ。
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