遺言さえも残さなかった

夏の太陽は全てを溶かそうとするがあまりもしかすると人までも溶かしているのではないかと思う。
白いワンピースが揺れる。細い手足を川に軽くつけて涼む君はなんとも度し難い。

遺言さえも残さなかった

水につけた足はくるぶしまで濡らし、手先についた水は払いさった。
やんわりと笑う君の笑顔に嘘偽りはないことがなんとなくわかったが、それでも私は君を許そうとは思わなかった。
セミの泣き声が死んだ時。君はきっとここにはいないのだと悟ってはいた。
葵とした草原を長く見つめると君が立っているような気がしてならない。
きっと君はここにこないだろうから、一言だけ呟いてそこを去った。

「いないのね。ここにも」


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