第3話
梅雨入りしてから、3週間がたった。
水無月さんと出会ってから、初めて晴れた。今日は会えないな。と少し寂しく思った。
「ここ、最近ずっと雨が降ってたよね」
「そうだね」
「そういえば、時雨って最近すぐ帰るよね」
「ああ。そうそう。雨の日限定の友達ができたんだよ」
「なにそれ」
と笑いながら聞いてきたから、水無月さんの話をした。
「へえ。でも、時雨側のバス停は滅多に人は使わないから珍しいね」
「そうなんだよ」
「その緑のスカートにクリーム色のセーラーなら、ほら、すぐそこの女子校じゃない?」
「あー、あそこ?」
「まぁ、制服というかそういうのはあまり見たことないものね」
友達は駅を使う人なのでそこの女子校の制服を知っているらしい。
私たちの学校からもう少し西側に行ったところにある女子校。正門が私たちの学校方面じゃないから普通は会わないと言っていた。
いきなり灰色の視界に入ってきた赤。
優しい茶色をしたストレートの髪をもつ水無月さんは学校でどんなことをしてるんだろう。
学校の話をするけど、そうじゃなくて、いつもはなにをしてるんだろう。この前、テストの話になったけど、頭は良さそうだった。英語がそんなに得意じゃないのは意外だったが、別にクォーターだからできるわけでもないし。それに、英語圏の人は彼女の家庭にいなかった気がする。
太陽が久しぶりにでたから、親は洗濯物が乾くと喜んでいたが、友達は地面からの水蒸気がひどくムシムシするから嫌だと言っていた。
私は、水無月さんと会えないと古典の授業そっちのけで窓の外をボウッとみていた。
「昔の言葉ってわけじゃないけど、最近では使われない言葉っていうのはあるよね」
先生の小話が始まった。
隣の席の男の子は久しぶりの暑い太陽の当たらない日陰の教室で温くない風、涼しい風を浴びながら爆睡していた。あ、きっと、跡がついてる。
「雨にも種類があって、だいたい日本人はなんでも名前をつけるよね。八百万の神っていうのがあるからだと思うけど」
そういえば、水無月とは6月のことだったな。
田に水を入れる時期とか。
水無月さんは、6月生まれなんだろうか。
「氷雨。と言って。これは、冷たい雨のことを指しててね。夜に降るは氷雨の涙。なんてね。夜に氷雨が降るとまる細長い氷が降っているみたいな感じに思えるんだよね」
梅雨が明けると会えなくなってしまうんだろうか。
やはり、連絡先を交換すべきかな?結局、あれから交換はしなかった。ただ、忘れてただけなんだけど。
「時雨」
「え、あ、はい!」
名前を呼ばれて、ボウッとしていた意識が戻った。大きな声で返事をしてしまった。
「ああ。ごめんごめん。そうじゃなくてね、時雨っていう言葉があるよねって話ね」
「え、あ、す、すみません・・」
クラスのみんながクスクスと笑っている。
隣の席で爆睡している子は眠たそうに周りを見てこちらを見た。
「時雨っていうのは、じうとも読むんだよね。ジウっていうのは、ちょうど良い時に降る雨っていう意味でね。時雨っていうのは、初冬に降る雨のことでね。急に風が強くなって、パラパラと降ってはやんで、数時間で通り過ぎる雨のことなんだけどね。驟雨、小夜なんて呼び方もあるんだよね」
時雨。という言葉にそれほどの言葉があるとは思わなかった。
昨日と変わって、雲はそこそこあるものの白いベールがかかる青空をボウッとみていた。
お昼を食べて眠い授業を受けて、掃除をしていると
「なーんか、雲行き怪しくない?」
と箒を持ちながら友達が言った。
ほんと?と窓を見れば灰色の暗い雲が空を覆っていた。
「あ、雨降ってない?」
「え?」
うまくは見えなかったが、パラパラと小さな細い雨が降っていた。
「えー、今日も雨?」
「晴れてからの雨ってさぁ、地味に嫌じゃない?」
「それなー」
とクラスメイトたちの会話を聞きながら、ガッツポーズを心の中で決めた。
「こんにちわ」
「あら、こんにちわ」
水無月さんが赤い傘をさしながら歩いてきた。
赤い傘をたたんで、水を飛ばす。回される傘が綺麗だと思った。
水無月さんは私の隣に座った。
「時雨さんの方が早かったわね」
「うん。ちょっと焦った」
「そう?」
「先に帰っちゃったと思って」
「そうね。でも、晴れていたのにね」
「そうだね。いきなりパラパラと降っては大雨になったもんね」
「そうね」
「私としては、時雨だったよ」
「ジウ?」
「今日ね、学校の古典で雨の名前のことをやったんだよ。それで、時雨ってジウっていうこともあって。時雨っていうのは、ちょうどいい時に降る雨のことなんだって」
「へえ。知らなかったわ」
「わたしも、今日知った」
と笑って時雨や氷雨の話をした。
「それで、時雨さん的には今日はジウだったの?」
と水無月さんが聞いてきたから
「うん。時雨だったよ」
と笑って
「水無月さんに会えるからね」
と言えば、水無月さんは顔を赤らめて
「あら、嬉しいわ。私もよ」
と微笑んだ。
灰色の世界に映える赤をみつめながら、明日も、雨ならばいいな。とガードレールの向こうに咲く紫陽花を見ながら思った。