お盆が終わって8月も中旬。ここからが勝負どころである私にとってこんなことしている場合なのだろうか。
「いやあ。夕方の少し前に来ると空いてるからいいね」
午前で終わった学校からそのまま凪と祭りに来た。祭りは2日に分かれて行われる。1日目が夏祭りだ。そして、2日目が花火大会。
食べ歩きは慣れてなくて下手くそに歩きながら食べる私を見て凪は歩道のブロックに案内してくれた。
「チーズドックなんて、知らなかったんだけどさ。クラスの子が言ってて」
アメリカンドックの衣の中にチーズが入ってるという最近はやりの韓国の食べ物。
クラスの子と交流があったんだとのんびり思った。別に1人であるわけではないと思うが気のままに一人でのんびりしていそうな凪だったから、クラスの子がという言葉には違和感を感じた。
「うまいねー」
チーズドックというものを食べて、飲み物を飲んで、一息。
今年は異常気象で暑さが増しているそうだ。毎年同じことを言って気がする。
「明日は花火大会だね。親御さんには言ってあるの?」
「もちろんよ」
「なんて?」
「喜んでくれたわ。いってらっしゃいって」
お母さんに言えば喜んだ顔をしていってらっしゃいと言ってくれた。それから、おなかいっぱい食べて来なさいとも。
「よかったね」
そう言って凪は立ち上がってスカートについた砂を払った。
私もつられて立てば、行こっかと手を繋いで来た。
「なんか、懐かしいわね」
「え?」
「ほら、初めて神社に来たときに。あなたが私の手を引いて走り出して」
覚えてない?と聞けば
「あー。あったね」
といった。
あの夏の始まりには蝉が鳴き始めたばかりだった。入道雲も小さくて、青い空も澄んではなかった。木の葉もエメラルドで、深い緑にはなってなかった。なによりも、まだ涼しかった。
「随分と遠くに来た気がする」
私が学校をサボるなんて、海に行くなんて、自転車で、親に嘘をついて、先生に嘘をついて、いけないことをして。でも、それは健全ないけないことだ。不健全さはまだ早い気がする。凪は体験したのだろうか。
「叫べた?」
人混みで人がガヤガヤと話をしている中。琥珀色をしたランプが暗くなって来た空を明るくした。明日には、花火が上がっているのか。
「どうかしら。でも、なんだかあなたといると人生において大切なものを見つけられる気がするの」
「そう」
「何故かしらね」
「なぜだろうね」
「私ね、凪のことを知りたいの」
そういえば彼女は驚いているのかこちらを見たまま固まっていた。
「家族は?家では何をしているの?何を考えているの?何を思っているの?昔はどんなことをしていたの?私。友達なんていないからなんていえばいいのかしら。ドキドキするのよ。相手のことを知りたいって」
と言えば凪は困ったようにでも、楽しそうに
「なに、私に恋でもしているの?」
と聞いて来た。私はびっくりして
「な!ち、違うわよ!」
と返した。凪は腹を抱えてカラカラと笑い
「顔真っ赤!」
と笑った。私は恥ずかしくなってもっと顔に熱を貯めた。
「はあー。そんなに知りたいんだ」
呼吸を整えてから私にそう聞いて来た。
「そ、うね。前から思っていたのよ。なにも知らないって」
「いいよ」
屋台の光が彼女の横顔を照らす。色とりどりの浴衣が彼女の背景になる。
「澄乃だから。教えてあげる」
相変わらず楽しそうに、されど。なにかいつもと雰囲気が変わった。
「でも、全部は教えてあげない」
少し下を向いていた彼女の綺麗な横顔がこちらを向く。
「なにが聞きたいの?」
三日月は空の上にあるはずなのに、私の目の前にある。薄い桃色をした形の綺麗な三日月。
祭囃子が聞こえて来た。握った手には暑さからお互いに手汗が出ていた。はぐれないようにするおまじない。
前を向いた凪は、焼きそばを食べようと焼きそばを売ってる屋台に向かって行く。私はあの時のようについて行く。何を聞こうかななんて、私はもう考えてなかった。
ただ、あの祭りには合わない儚い雰囲気を一瞬出した時の凪の顔に、なぜが心を奪われた。
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