昨日のことはまるで夢のようなのに、瞼に焼き付いて離れなかった。

「こんにちわ」

相変わらずのポニーテールに藍色と水の色のシュシュ。八重歯が見える可愛らしい笑みは、深く見える。

「こんにちわって、学校には来てたのね」

夕方に終わった学校。生徒たちはみんな祭りまで時間をどう潰そうか考えたり、直行しようとしたりしている。
荷物をカバンに乗っけてため息をつく。

「まあね。今日は花火だよー」

楽しそうに笑う凪。自分の自転車に腰掛けながら空を見上げて言う。

「そうね」

人混みが苦手な私はあまり乗る気じゃない。遠くから見えたらいいのにとなんども思う。

「まあ、楽しいよ。きっと」

「人混み、苦手なのよね」

「ああ。人混み関係ないから」

またわからないことをいう。
教えてくれないから疑問だけが残る。

「楽しみだなー」

鼻歌を歌いながらのんびりとする凪。
夏が終わろうとしていて、夜はもう涼しくなっていた。蒸し蒸しとした暑さは感じられなくてもう、秋なんだなと思う。
涼しい風が吹く。凪のポニーテールが揺れる。昨日ことはもうなかったように振る舞う。強がりか。あるいは元からか。不思議と心配はしなかった。いや、しなかったわけじゃない。ただ、この子は本当にすごいなとなぜか感じた。
普通では成し遂げないことをなんでも成し遂げてしまいそうな気がした。
青い空はずっと続いてて、深い緑は光っている。夏は終わらないんだなと思うと同時に夏が終わるのを肌で感じていた。

「でも、お腹すくからなんか食べに行こう」

結局行くのかとため息をつけば首をコテンとして私を待つ彼女が目の前にいる。
なんでもないと顔を振る。

「サイフ」

それだけ言ってサコッシュを開けた。

「え?」

「カバン、重いでしょ」

そう言って、ほら。とカバンを差し出してきた。

「いいの?」

「いいよ」

あとで帰ってくるし。と言った。

「帰って来るの?」

「帰って来るよ」

「閉まってるんじゃないの?」

「だいじょーぶ」

笑って財布を私から奪ってサコッシュに入れた。

「ほら」

と言って私の腕を掴む。ぎゅっと握った私の手。バナナフィッシュの尻尾。
私はそれをみて死にたくはならない。だけど、フィッシュであるあなたは自分の姿をみたら死にたくなるのだろうか。
昨日と同じように屋台をめぐる。だいたい同じような屋台。昨日食べた焼きそば屋さんを通る。
今日は小さいものを細々と食べた。
ベビーカステラ、キュウリ、焼き鳥。お腹いっぱいになって、気がつけばあたりは暗くなっていた。神社に向かう道を進むから、そろそろ神社に向かうのかと思えば神社を抜けていつもの道を歩いていく。凪は何も言わない。

「荷物でも取りに来たの?」

「違うよ。荷物はまーだ」

いたずらっ子のように笑って私の手を再び握る。

「言ったでしょ?」

そう言ってある場所に向かう。
その尾びれはユラユラと揺らいでいる。なんとも言えないこと気持ちを早く凪に伝えたくて、足が早まる。
ポニーテールを見ると私はどうしても凪に何かしたくなる。支えるとかじゃない。なにか酷いことをしてしまいたくなる。目を覚ませと寝ているのは私かもしれないのに。
息ができなくて、私はきっと死ぬんだろうなと思った。
蝉の声は遠くに聞こえる。ただ、ひぐらしの鳴き声が響く夏の宵。祭囃子は聞こえないが、ただ、水の音が聞こえた気がした。


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