ナイトプールはバレてなかった。
あれから私たちは花火を見て静かに立ち上がっていつも通り心地の良い無言で荷物と自転車を取りに行って、またね。と挨拶して別れた。
あれから、2日。凪は学校に来ていない。会ってない。私はいつも通りの生活をしていた。元に戻ったというには大げさだが。平々凡々と日々があまりに過ぎるからふとした時に凪を思い出していた。

「おはよ」

久しぶりに会った凪は、いつも通りの笑みにポニーテールだった。

「おはよう。学校に来ずになにをしていたの?」

「なにって、計画を立ててたんだよ」

なんの?と聞けばキョトンとして

「旅行だけど」

と答えた。夏はもう終わる。夜は涼しくて朝も快適になってきた。もう8月はあと2週間も残っていない。今年は1日が土曜だから31日に学校の始業式が始まる。それが始まったら私は今まで以上に大変になる。
呆れたとため息をついて凪をみる。

「どこに行くの?」

「お楽しみ」

「いつもそうじゃない」

「じゃなちゃ、面白くないでしょ」

「準備の仕様がないわ」

「お泊まりは好きじゃないでしょ?」

「嫌いなんていってないわ。急だと着替えもなにもないから嫌だって言ったのよ」

「なぁんだ。そうだったのか」

気の抜けた言葉を発する凪にちょっとむかっとした。

「まあ、泊まりしてもいいんだけど。どっちがいい?」

「学校は、1日くらい休んでもいいでしょう」

「あれ、珍しい」

「なにが?」

「学校は休んではいけないって思ってる人だからさ、君は」

凪の言葉に確かにと思った。不真面目になったのか。それとも、

「うん。いい調子だね。すみの」

先生みたいにいう。

「君、変わってきてるよ。もちろん、いい方向に」

「あなたのおかげ。・・かしらね」

凪の言葉を聞いてなんとなく青いラムネ色した空を見て言った。
凪は驚いたのか固まっているのを横目で確認して

「なに。どうかしたの?」

と顔を元に戻せば、凪は少し嬉しそうにされどどこか悲しそうな顔をした。

「別に。強いて言えば、そうだね。なんていうのかな。成長が見れて嬉しい?」

腕を組んで右手の細っこい指を顎に添えて探偵のような格好をして言った。私は

「なに、私の親みたいよ」

と笑えば、凪も笑った。

「どこに行くのかも内緒なの?」

「うん。内緒。楽しみにしてて」

「いつ行くの?」

「明後日」

「明後日って。また、急な」

「明後日は急じゃないよ」

「まったく。誰もがみんなあなたみたいにフットワーク軽いわけじゃないんだからね」

「私は別に軽くないよ。自分で考えて動いてるんだ」

また訳のわからないことを言う。でも、それが凪らしくて安心した気がした。

「わかった。明後日ね。どこで待ち合わせなの?」

「うーん。駅かな」

「駅?なに駅?」

「学校から一番近い駅」

「ああ。あそこね。何時?」

「そうだね。9時」

「随分と早いわね」

「いろんなことしたいでしょ?」

「で、着替えはいるの?」

「うーん。いらないんじゃない?」

「まあ。リュックで行くから荷物入れて行くわ」

「なるほど。私もそうしよう」

「そうしようって、あなたが考えるんでしよ?」

「当日に変わることだって楽しみさ」

ルンルン気分で鼻歌を歌い出した彼女。まったくと呆れるがわくわくの方が大きいのは確かだ。

「楽しみだねえ」

再度言った彼女に、私も

「楽しみね」

と返した。
驚く凪をみてふと、そう返したのは初めてだったような気がした。初めてか、久しぶりかはわからないがそんな気がした。呆れてばかりいた私は楽しむことを楽しむなんていつぶりだろうか。
笑顔で返してきた凪をみて窓の外を見た。青いラムネ色した空に浮かぶ白い雲はあとなんか見られるんだろう。
夏が終わる。残暑になる。置き去りにされた夏を回収して仕舞えば冬が来る。冬になった時。私たちはどうなっているんだろうか。
蝉の声は小さくなる。死んでしまった夏の象徴の行方を私は知らなかった。


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