朝の日差しが強くなってから、もう数週間立つ。あと、少しで夏休みだ。
ワクワクしてたのに、夏期講習の日程用紙を配られ、宿題一覧表を貰って気分が下がった。

「やる気が出ないよね」

「しょうがないわ。受験生ですもの」

「まぁ、それはそうだね」

「凪はどこに行くの?」

3年になれば必然的に話す進路の話。
凪に聞けば彼女は、笑って

「決めてないよ」

と言った。

「就職?」

「あれ、澄乃は知らないの?幽霊は受験がないんだよ」

意地悪に笑った凪にため息をついた。
蝉が鳴く。冷たい廊下には温い風が吹く。食堂の昼食も冷たいものが増えた。

「幽霊って、貴女、どうするの?ニートにでもなるの?」

「いやいや、全然。澄乃、私はね将来のことを考えてないんだよ」

「なんで?」

そう聞けば、凪は窓の外の青い空を見た。

「さぁ。・・どうしてかな」

呟くように言った。
青いシュシュが氷のように思えた。水色と藍色をした2つの薄い生地を織り込んで作られているシュシュ。長いポニーテールは先っぽが少し茶色かった。

「澄乃は、どこ行くの?」

「私?別に文学の方に」

「なるほど」

少し会話が終わった。
風が吹く。楽しそうに笑っている凪を見て私も笑った。
ムルソーのように現在の事のみを考えれば大学なんてそのうち考えるのだろうか。

「あのさ、澄乃」

「ん?」

「私、頭いいんだよ?」

と少し呆れたように言った。
なにが?と顔をすれば、クスリと笑って

「今、私の将来のことを考えていたでしょ」

当てられてギクリとした。

「え、ええ。まぁ」

「頭いいからさ、行こうと思えば行けるんだよ」

「そんな簡単な・・」

「簡単なことさ」

凪は笑った。

「簡単なことだよ。私にとってはね」

「どういうこと、」

「どうもこうないよ。そういうことなんだ。つまりはね、私は将来わからないってことだよ」

蝉が鳴く。7日目のやつらが死んで行く。7日目を迎えることに恐怖はあるのか。
窓から見える大きな白い雲。青い空に溶けることもせず姿を見せつけている。車に反射する太陽の光がキラキラしていた。
自分だって、一度くらいは考えたことあるけど深くも考えたことはない。普通に考えたことくらいある。でも、1、2回目程度で鬱なんて言われたら世の中どうなるんだろう。
人はそう思う人の方が多いだろう。理由は千差万別でも、思いは1つだ。
凪は笑っていた。普通に。

「死ぬの?」

そう聞けば、凪は少し驚いて笑った。

「だったら、一緒に死ぬ?」

楽しそうに笑うから、私も笑った。
凪のように楽しそうに笑えてるかわからないけど、なんだか凪といると将来のことはどうでもよくなる。いつも通りにしてれば未来なんて決まるって。深く考えることじゃないって

「叫ぼうか。澄乃」

凪が言う。

「将来をぐちぐち考えてないで、叫ぼうよ。若いからさ、許されることをしよう。今のうちにできることを怒られない軽度でしよう。もっと言えば、バカをしよう」

凪はいつも楽しそうなことを考えては話してくれた。

「そう、ね」

なんだか、楽しくなってきて笑った。
このワクワク感をなんて言うんだろう。なんて言えばいいんだろう。わりと真面目な自分が今、最高に楽しいことをする。それが一番怖かった。
新しいことをする恐怖さは誰にだってあるだろう。それでも、その楽しさは今まで忘れていたようにも感じた。
凪はわりと子供だ。幼稚園児のような柔軟な楽しさを追求する無邪気さと、工夫をする小学生の感覚。それでも、頭は良かった。勉強じゃなくて、人として。彼女は忘れてはならなかったものを覚えている。

「うん!」

私の返事をきいて凪は、笑った。そして、宿題の一覧表を破った。縦に2つ。それを重ねて横に引っ張って、また引っ張って。ある程度小さい四角形になった紙切れを誰もいない廊下の自動販売機に設置されているゴミ箱に入れた。

「これが。青春の楽しいこと」

と笑った。

「やりたいことやって、きちんと自分で回収する。ね」

「なるほどね」

「周りに迷惑をかけるんじゃないよ。巻き込むんだ」

「巻き込む」

「そう。楽しいよって、顔見てみろよって、つまんねぇ顔してんぞ!って言うんだ」

凪はカバンを背負って、私の手を引いた。急いでカバンを引っ張った。
どこに行くの?なんて、声を弾ませて聞く。無言で笑っている凪に惹かれてもう部活の子だけいる学校を後にする。
あの最初にあったところに着くと、右に回った。
たどり着いた場所は、山で。そこの林を抜ければ神社があった。

「綺麗でしょ?」

凪が言う。
砦の向こうからは夕陽が見える。
オレンジ色の綺麗な光が街を優しく包む。

「綺麗ね」

なんだか涙が流れ落ちそうになった。
繋いでいたというよりも、引っ張られていた手をきつく握った。

「すこし、泣いていい?」

少し鼻声で言えば、うん。と声が聞こえた。
鼻をすすった。涙が垂れるよというよりも、心が爽やかに泣いている感じだった。
夏のオレンジはきつく。目が痛いほどだったが、白い雲もなくなって、上からは濃いブルーキュラソーが流れて行く。

「・・・叫んでいいよ」

凪が優しく言った。
私は、ふふふ。と笑って

「ありがとう。でも、そうね。それはもう少ししたらにするわ」

言った。
どこかで、寺の鐘がなった。そして、一番星が輝いていた。


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